(画像はイメージです/PIXTA)

「褥瘡(床ずれ)は病院でできるもの」というイメージがあるかもしれませんが、実際には在宅療養中に発生することは珍しくなく、また、一度できた褥瘡の治療の多くも在宅で行われています。つまり、在宅医療にとって褥瘡の予防・診断・治療は重要な課題であり、予防と治療の主体は在宅にあると言えるのです。今回は、在宅医療で新たな褥瘡を作らない、すでにある褥瘡を悪化させないポイントを解説します。本記事では、医療法人あい友会理事長の野末睦医師が解説します。

今まで問題なかったのに…突然、褥瘡が新規発生する理由

褥瘡とは、体の一部に持続的な圧力が加わることで血流が障害され、その結果として生じる皮膚や皮下組織の損傷のことをいいます。

 

褥瘡が悪化すると、患者さんご本人は痛みや不快感に苦しむだけでなく、ご家族や介護施設の職員、訪問看護師など、日々ケアにあたる人たちにとっても、処置に多くの時間と労力を要することから、大きな負担となります。

 

そのため在宅医療では、褥瘡を「治す」以上に「つくらない」こと、すなわち予防が何よりも重要になります。

 

例えば、脳卒中後で寝ている時間が長く、1年、2年と在宅療養を続けている患者さんが、それまで一度も褥瘡をできなかったにもかかわらず、ある日突然、褥瘡ができてしまうことがあります。

 

そのようなとき、ご家族からは、

 

「1年以上ずっと同じように介護してきた、今まで一度も床ずれなんてできなかったのに、どうして〈急にできてしまった〉のでしょうか?」

 

という言葉を耳にすることがあります。

 

同様の状況は介護施設でも起こります。介護職員から「今まで問題なかったのに、なぜ〈急にできてしまった〉のでしょうか?」と相談されることがあります。

 

実は、この疑問には、褥瘡予防を考えるうえで非常に重要なヒントが隠されています。

栄養状態、皮下脂肪の量…患者さん自身の変化が大きく影響

重要なのは、褥瘡の発生はベッドやマットレスなどの環境要因だけでなく、患者さん自身の変化が大きく影響しているということです。

 

加齢や病状の変化、栄養状態の悪化などによって、皮膚の強さや血流の状態は少しずつ変化します。また、それまでクッションの役割を果たしていた皮下脂肪が減少すると、以前と同じ環境で過ごしていても、骨とベッドとの間に局所的な強い圧力が生じるようになります。その結果、それまで問題なかった環境でも褥瘡が発生してしまうのです。

 

したがって、褥瘡を予防するためには、体重の変化や栄養状態、活動性などを含めた患者さんの全身状態を継続的に把握し、その時々の状態に応じて、除圧方法や体位変換、マットレスなどの環境を見直していくことが重要になります。

 

そして、このような変化を最も早く発見できるのは、患者さんの身近にいる方々です。訪問看護師、介護施設の職員、ご家族が、「少し赤くなっている」「いつもと皮膚の様子が違う」といった小さな変化に早く気づき、それを訪問診療医へ伝える。このような多職種とご家族による継続的な観察と連携こそが、褥瘡予防の最大の鍵になると私は考えています。

 

近年では、エアマットをはじめとする体圧分散・除圧を目的とした医療機器が大きく進歩しています。そのため、私たち訪問診療医は、こうした機器に関する知識を常にアップデートするとともに、福祉用具や医療機器の提供業者とも日頃から密接に連携しておくことが重要です。

 

また、見落とされやすいのが、車椅子で過ごす時間の除圧です。寝ているときだけでなく、座位でも局所には強い圧力がかかります。特に介護施設では長時間の座位が続くことも多く、座っているうちに体が前方へずれ落ちることで、「ずれ(せん断力)」が加わり、褥瘡が発生しやすくなります。さらに、クッションの選択や調整が十分でないことも少なくありません。

 

筆者自身は、こうした座位での褥瘡予防には、空気で体圧を分散するエアクッションが非常に有用だと感じています。以前から、ロホ®クッションのような独立した多数の空気セルで構成されたクッションを使用することが多く、患者さんの体格や状態にもよりますが、セルの高さが5cm以上あるタイプを選ぶことが少なくありません。比較的導入しやすく、座位での褥瘡予防を考える際には、有力な選択肢の一つになるでしょう。

病院等で発生した褥瘡を在宅へ引き継ぐ「持ち込み褥瘡」の管理

在宅医療にはもう一つ重要な課題があります。それは、病院や介護施設で発生した褥瘡を在宅へ引き継ぐケースです。在宅医療の現場では、これを「持ち込み褥瘡」と呼ぶことがあります。

 

患者さんが在宅療養へ移行する前に、病院や介護施設で褥瘡が発生し、治癒しないまま在宅医療へ引き継がれることは少なくありません。

 

このような患者さんの場合、褥瘡の悪化を防ぎ、できるだけ早い治癒へと導くことが、訪問診療医に求められる重要な役割となります。

 

すでにある褥瘡の悪化を予防するという点では、基本的な考え方は新規発生の予防と共通していますが、褥瘡ができた原因を突き止め、それを取り除くことが、より重要になります。

 

そのためにはまず、どのような状況で褥瘡が発生したのかを把握します。

 

ベッド上で生じたのか、車椅子で長時間座っていたために生じたのか、あるいは医療機器や装具が接触し続けたことによる医療関連機器圧迫創傷(MDRPU)なのか。その発生機序を確認するとともに、患者さんの栄養状態や体重変化、循環状態など全身状態も含めて総合的にアセスメントする必要があります。

 

そして、それらの原因を一つひとつ根気強く取り除いていくことが、褥瘡の悪化予防の基本になります。

 

現在のエアマットは性能が大きく向上しており、適切に使用すれば、新たな褥瘡の発生を防ぐうえで非常に有効です。

 

しかし、すでに褥瘡ができている患者さんでは、それだけでは十分ではありません。

 

創部を治癒させるためには、創部への圧力を可能な限りゼロに近づけることが原則です。エアマットを使用していても、褥瘡部にわずかでも圧力がかかり続けていれば、創はなかなか治癒せず、場合によっては悪化してしまいます。

 

これが、新規発生の予防と、すでに存在する褥瘡の治療との最も大きな違いです。

 

そのため、すでに褥瘡ができている患者さんでは、体位変換を工夫したり、クッションや枕を用いて創部周囲を支えたりすることで、褥瘡そのものにできる限り圧力がかからない状態をつくることが重要になります。

 

これは悪化予防であると同時に、褥瘡治療の基本でもあります。

 

 

野末 睦
医師
医療法人 あい友会  理事長

 

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