条約がなくても徴収される?
一方で、国際的な税務協力には、条約の適用を受けないケースもあります。
タイは「税務行政執行共助条約」に2021年12月に署名し、2022年4月1日に発効しています。しかし、その発効前の2016年、日本における土地売買によって利益を得たサモア法人の実質的な経営者で、日本の税を滞納していたタイ人経営者について、タイの国税当局が日本からの要請に応じて税を徴収した事例があります。
当時は、現在のように同条約に基づく徴収共助を利用できる状況にはありませんでした。それにもかかわらず、タイの国税当局が日本側の要請に応じて徴収に協力したものです。
このケースが示しているのは、国際的な税務協力が、必ずしも条約だけによって成り立っているわけではないということです。相互主義や各国の税務当局同士の協力によって、条約の枠組みを超えて滞納税の徴収が行われる場合もあります。
「国境を越えれば逃げ切れる」という時代は終わった
かつては、人や資産が国境を越えて移動すれば、税務当局が追跡することは難しくなると考えられていました。
しかし、国際化の進展に伴って、税務当局同士の連携も強化されています。多国間条約による徴収共助だけでなく、相手国との協力によって税の徴収が行われるケースもあります。
もちろん、すべてのケースで外国政府が自動的に税金を徴収してくれるわけではありません。条約の内容や相手国の国内法、徴収の対象となる税の種類など、一定の条件があります。
それでも、「海外に移れば日本の税金は取られない」「外国に資産を移せば滞納税から逃れられる」といった考え方が通用しにくくなっていることは間違いありません。
人や資産の国際的な移動が当たり前になったのと同じように、税務当局の連携も国境を越えて進んでいます。税の世界では、国境を越えたからといって「逃げ得」が許される時代ではなくなっているのです。
矢内 一好
国際課税研究所
首席研究員
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