半年と20万円をかけてでも、調査が必要だった理由
「1,500万円程度で売却する土地なのに、相続人を調べるだけで半年、20万円もかかるのですか」
そう感じる方もいるかもしれません。
しかし、今回のような数次相続では、最初に相続人を正確に特定することが何より重要です。
相続人を1人でも見落とした状態で遺産分割を進めることはできません。
仮に売却手続きの途中で「ほかにも相続人がいた」と判明すれば、それまで進めてきた協議や手続きをやり直さなければならないこともあります。
特に、何十年も相続登記をしていない不動産の場合、その間に相続人自身も亡くなり、次の相続が発生していることがあります。
子ども、孫、その先へと権利が枝分かれしていけば、相続人はどんどん増えていきます。
今回の約20万円は、複雑な相続関係を正確に把握し、安全に売却まで進めるために必要な初期費用だったといえます。
「相続分譲渡」で手続きの当事者を整理
今回、もう1つ重要だったのが「相続分譲渡」です。相続人が10人いる場合、遺産分割協議を行うには、原則として全員の合意を得る必要があります。
全員が1枚の遺産分割協議書に署名・押印する方法もありますが、親族が全国に散らばっていたり、日頃ほとんど交流がなかったりすれば、手続きをまとめるだけでも大きな負担になります。
そこで今回は、
「実家に住んでいる弟さんに権利を集約し、その弟さんが売却する」
という方向性を明確にしました。
他の相続人にも、なぜ弟さんへ権利を集める必要があるのかを説明することで、協力を得やすくなりました。
ただし、相続分譲渡を利用すれば、必ず簡単に解決できるというわけではありません。
相続人それぞれの事情や相続関係によって適切な方法は異なりますし、実印や印鑑証明書などの協力を得るための調整も必要です。
今回も、必要に応じて金銭を支払うことを提示しながら、親族の理解を得ていきました。
Fさんが本当に望んでいた「自分の代で終わらせること」
こうして、昭和41年から約60年間続いていた不動産の問題は、ようやく解決へ向かいました。
司法書士による半年間の調査で34人の相続関係を解明し、24人が相続放棄済みであることを確認。
残る10人については、他の相続人の協力を得ながら弟さんへ権利を集約し、単独名義にすることができました。
そのうえで不動産を売却し、固定資産税の未納分やFさんが立て替えていた費用、相続手続きにかかった費用などを精算。
弟さんの住み替えについても進めることができました。
Fさんにとって一番大きかったのは、売却代金を得たことではありません。
ご両親の代から長年気にかけてきた実家の問題を、
「自分の代で整理できた」
と思える状態にできたことでした。
相続登記を放置するほど、次の世代の負担は重くなる
「祖父の名義のままになっている土地がある」「誰が相続人なのか分からない」「親族が多すぎて、もう整理できないと思っている」
このような相談は珍しくありません。
相続登記をしなくても、その家に住み続けることはできるため、目の前で困っていなければ、つい手続きを先送りしてしまいがちです。
しかし、相続人が亡くなれば、その人の相続権はさらに次の世代へ引き継がれます。
時間が経つほど相続人が増え、面識のない親族や、連絡先すら分からない人が相続人になる可能性も高くなります。
今回のケースでも、おじいさんが亡くなった時点で相続登記をしていれば、34人もの相続関係を調査する必要はありませんでした。
なお、2024年4月から相続登記は義務化されています。
古い名義の不動産が残っている場合は、「売りたくなったときに考えればいい」と先送りせず、まず現在の権利関係を確認しておくことが大切です。
Fさんのように「自分の代で終わらせたい」と思ったときが、長年放置されてきた相続問題を整理するきっかけになります。
曽根 惠子
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
相続実務士®
株式会社夢相続 代表取締役
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
