値上がり益は「実現」して初めて税の対象に…所得税法がとる実現主義
たとえばBさんが5000万円で取得した土地を9000万円で売却した場合、その差額である4000万円が、「値上がり益」(キャピタル・ゲイン)として課税されるという考えです。ポイントは、(1)資産を手放したときに、(2)値上がり益を清算して課税すること、です。
ここには「所得の実現」という問題が、じつは潜んでいます。
それは「未実現の所得」に関わってきます。資産の保有中の値上がり益に対する課税となると、Bさんが5000万円で購入した土地が1年後に5500万円になっていた場合は、どうでしょう。その差額である500万円については、値上がりがあったのだから「所得」として課税すべきという考えもありそうですよね。
たしかに「包括的所得概念」の別名は「純資産増加説」でした。Bさんの場合、1年後に純資産の増加があったので、この時点でBさんは500万円の「所得」を得たと考えてもよさそうに思えます。
しかし、このように考えてしまうと、資産を保有しているだけで、その資産の価値が上昇すれば課税をされ続ける、ということになりかねません。また、いつの時点を基準に「値上がり」を判断すべきなのかという問題もでてきます。
そこで、「譲渡所得」が課税の対象としているのは、あくまで資産を取得してから譲渡した時までの「値上がり益」と考えられています。そして、現実に売却をするなどして、その資産を手放したときに「清算」して「課税」すると考えられているのです。これが「清算課税説」の意味です。手放すまでにも値上がりはするかもしれませんが、それは「未だ実現していない所得」だと考えるのです(未実現の所得)。
このように、「所得が実現」して初めて「所得税」の課税対象にするという考え方を「実現主義」といいます。
大事なことは、「包括的所得概念」からすれば「未実現の所得」でも「所得」として課税されるのが原則であるという点です。ただし、あとでみるように、所得税法は「収入」がある場合に課税するという規定をしているため(所得税法36条1項)、所得が実現していなければ課税できないという「原則」を立法政策としてとっています。
「現金」は対象外?…譲渡所得を発生させる「資産」の定義
譲渡所得を理解するにあたって次に考えなければならないのは、そもそも、(1)「資産」とは何か。そして、(2)「譲渡」とは何か。この2点です。譲渡所得は、「資産」を「譲渡」することで得た所得だからです(所得税法33条1項)。
まず(1)の「資産」については、(ア)財産的価値があるもので、(イ)他人に移転する可能性のあるもの全般をいうと考えられています。
譲渡所得課税の本質(趣旨)は、保有期間中の値上がり益に対して、資産を手放すときに清算して課税することにありました。そうであれば、他人に移転する可能性に加え、値上がりの可能性がある財産であることも前提にならなければならないはずです。
そこで、(ア)財産的価値があり、(イ)他人に移転する可能性があっても、値上がる可能性のないものは、「資産」にあたらないと考えられています。
こうして現金が「資産」にあたらない以上、金銭債権についても「資産」にはあたらないと考えられています。

