(※写真はイメージです/PIXTA)

子どもが独立した後も、実家は「いつでも帰れる場所」であり続けることがあります。一方、親にも子育てを終えた後の生活があり、帰省を迎えるための家事や予定の調整が負担になることもあります。親子だからこそ、長年続いてきた習慣について、あえて話し合う機会は少ないのかもしれません。

「帰ってきてほしくないわけじゃない」母が初めて話したこと

結局、その週末の帰省は取りやめました。数週間後、拓也さんが一人で実家を訪れたとき、何気なく先日の話になりました。

 

「母さん、最近忙しいの?」

 

すると恵美子さんは、

 

「忙しいというより、私にも予定があるのよ」

 

と笑いました。そして、少し迷った後に続けました。

 

「あなたたちが帰ってくるのが嫌なわけじゃないよ。孫にも会いたいし。でも、『来週帰っていい?』じゃなくて『来週帰るから』って言われるでしょう」

 

拓也さんは黙りました。

 

「実家なんだから、帰るのは当たり前だと思ってた」

 

そう答えると、恵美子さんは、

 

「あなたにとっては実家だけど、今はお父さんと私が暮らしている家でもあるのよ」

 

と言いました。その言葉に、拓也さんは何も返せなかったといいます。

 

恵美子さんが負担に感じていたのは、食費だけではありませんでした。

 

4人が泊まれば、普段使っていない部屋を掃除し、寝具を準備します。食事を考え、買い物を増やし、帰った後にはシーツやタオルの洗濯もあります。

 

さらに気になっていたのが、帰省の連絡が直前になることでした。

 

「予定がない週ならいいの。でも、私が予定を変えるものだと思われている感じがして、それが嫌だったの」

 

拓也さんに悪気はありませんでした。むしろ、頻繁に孫を連れて帰ることを親孝行の一つだと思っていたといいます。

 

だからこそ、母の言葉は意外でした。

 

「帰ったら喜んでもらえると思っていました。母に予定があったとしても、家族が来るならそっちを優先するものだと、勝手に思っていたんですよね」

 

それから拓也さんは、自分たちだけで帰省の日程を決めることをやめました。

 

まず「この週末、行っても大丈夫?」と確認し、宿泊日数も事前に伝えます。食事を外で済ませたり、朝食を自分たちで買って行ったりすることも増えました。

 

恵美子さんも、都合が悪ければ「その週は無理」と言うようになったといいます。

 

親子の関係は、子どもが成人したからといって途切れるものではありません。ただ、子どもが独立すれば、親の暮らしも少しずつ変わっていきます。仕事を続ける人もいれば、友人との付き合いや趣味に時間を使う人もいます。

 

かつて家族全員で暮らしていた家であっても、年月がたてば、そこに住む人や生活のリズムは変わります。「いつでも帰れる」という子どもの感覚と、「今は自分たちの生活の場」という親の感覚が、いつまでも同じとは限らないのです。

 

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