「来週帰るから」何年も続いていた親子のやり取り
「来週の土曜、そっち帰るから」
長男の拓也さん(仮名・39歳)は、母の恵美子さん(仮名・65歳)に電話をかけました。
拓也さんは大学進学を機に実家を離れ、現在は妻と小学生の子ども2人との4人暮らし。会社員として月収約50万円を得ています。
実家までは車で2時間ほど。お盆や年末年始だけでなく、3連休や子どもの長期休暇などにも家族で帰省し、年に5~6回は泊まっていました。
「分かった。何泊するの?」
「たぶん2泊。まだ分からないけど」
そんなやり取りを何年も続けてきました。
拓也さんにとって、実家に帰ることに特別な理由はいりません。子どもたちは祖父母に会えるのを楽しみにしていますし、自分も地元の友人と会えます。
一方、恵美子さんは拓也さんから連絡を受けると、布団を干し、シーツを洗い、冷蔵庫の中身を確認していました。
夫の隆さん(仮名・67歳)との二人暮らしでは簡単に済ませている夕食も、息子一家が来ればそうはいきません。孫が好きなハンバーグや唐揚げを作り、朝食用のパンや牛乳、果物も買っておきます。
拓也さんも何もしていなかったわけではありません。帰省時には菓子折りを持参し、外食すれば自分が支払うこともありました。それでも、実家で過ごしている間は基本的に「迎えてもらう側」でした。
ある金曜日、拓也さんは妻から、「明日、お義母さんのところに行くんだよね?」と聞かれました。そこで、母にまだ連絡していなかったことを思い出します。
電話をすると、恵美子さんは少し間を置いてから言いました。
「明日はちょっと困るかな」
拓也さんは驚きました。
「何かあるの?」
「友達と出かける予定なの。日曜も用事があるし」
「別に俺たちだけ家にいてもいいよ。鍵あるし」
すると恵美子さんは、
「そういうことじゃないのよ」
と答えました。
内閣府『令和6年度 高齢社会対策総合調査(高齢者の経済生活に関する調査)』によると、60歳以上で継続的に何らかの社会的活動をしている人は61.4%です。「就労・就業」が43.6%、「趣味やおけいこ事」が19.7%、「地域社会活動」が13.8%となっており、高齢期にも仕事や趣味など、それぞれの生活を持つ人は少なくありません。
恵美子さんも週3日ほどパートで働き、友人との外出や趣味の教室にも通っていました。しかし拓也さんは、それまで母の予定を詳しく聞いたことがありませんでした。
