ひとりで暮らす母の「私は大丈夫」を信じた息子
「母はもともとしっかりした人でしたし、電話をしてもいつも明るかった。だから、高齢ではありますが、ひとり暮らしでも大丈夫だと思っていたんです」
そう振り返るのは、都内で会社員として働く達也さん(仮名・52歳)。母の昌子さん(仮名・79歳)は、夫に先立たれてから、地方の団地でひとり暮らしを続けていました。
達也さんは、父が亡くなったあと、母がいくら年金を受け取っているのか、どれぐらい貯金があるのか、きちんと把握していませんでした。というのも、「生活は大丈夫?」と尋ねても「大丈夫よ。あなたは自分の家族のことを心配していればいいの」と、 家計のことをはっきり言いたがらなかったからです。
「自分の実家ですから、裕福じゃないことはもちろん知っています。でも、困ったら頼ってくるだろうし、なんとかなっているんだろうと楽観視していました」
ところが、お盆休みに帰省した達也さんは、部屋に入った瞬間に違和感を覚えました。
「母さん、なんでエアコンつけてないの?」
猛暑でもエアコンなし、がらんとした冷蔵庫…「母の告白」
室温はひどく高く、昌子さんは部屋にいるにもかかわらず汗をびっしょりかいていました。
「冷えちゃって苦手なの。あなたが暑いならつけようか?」
昌子さんは平然としています。しかし、冷蔵庫を開けると、違和感はさらに強まりました。中には卵や納豆、少量の野菜しかなかったのです。
「これだけなの? 今日だけ?」
「栄養価が高いものを選んでるから十分よ。年を取ってあまり食べられなくなったから」
けれど、前年の夏に帰省したときには、エアコンをつけていました。冷蔵庫にも、もっと食材が入っていたはずです。何より、以前より明らかに痩せた母の姿。達也さんは、何かがおかしいと感じました。
「本当のことを言ってくれよ。もしかして……お金、ないのか?」
それまで笑顔で取り繕っていた昌子さんでしたが、ぽつぽつと語り始めたのは、達也さんが想像していなかった暮らしでした。
