「親が元気なうちは、子や孫にできる限りのことを」
地方都市で暮らす田中正夫さん(仮名/75歳)は、妻の和子さん(仮名/72歳)と2人で年金生活を送っています。
2人の子どもはすでに独立してそれぞれに家庭を築きました。孫は、下は3歳から上は小学校高学年まで、全部で5人います。
毎年お盆ともなれば、子どもと孫が実家に勢ぞろい。正夫さんと和子さんは、オードブルやお寿司を用意して温かく迎えます。みんなで外食に行った際には、当然のように正夫さんが会計を済ませていました。お正月には孫たちへのお年玉。誕生日にはプレゼントにケーキにと、孫たちのために惜しみなくお金を使ってきました。
正夫さんには、「親が元気なうちは、子どもにできることをしてやりたい」という考えがあったのです。10年ほど前、子どもたちがそれぞれ住宅を購入する際にも、1,000万円ずつ、合計2,000万円を援助しています。その後もたくさんの孫に恵まれ、子どもたちとも良好な関係を築いてきたつもりでした。
ところが最近、正夫さん夫婦はある変化に気づきます。楽しみにしていた孫の誕生日会に、いつの間にか呼ばれなくなっていたのです。
冗談のつもりだった一言
変化のきっかけは、その年のお正月でした。
いつものように子どもたちと孫たちが集まり、賑やかな時間を過ごしていたときのこと。何気ない会話のなかで、和子さんがふと漏らしました。
「最近、預金の残高がずいぶん減ってきちゃって。ちょっと不安なのよね」
そして、半分冗談のつもりでこう続けました。
「あなたたちにもいっぱいお金を渡したから、もうお金は残っていません(笑)」
正夫さん夫婦としては、子どもたちを責める意図などありませんでした。ところが、子どもたちの受け止め方は違ったようです。
これまで、誕生日会に呼べばケーキを用意してくれる。孫には必ずプレゼントを買ってくれる。外食すればお金を払ってくれる。――それだけに、子どもたちは「親に無理をさせていたんじゃないか」と負い目を感じるようになったのです。
それ以降、子どもたちは両親に気を遣うようになり、誕生日会などにも積極的に誘わなくなっていきました。
