「この家は残してほしい」息子が反対した住み替え
「父さん、なんで団地なんだよ。せっかく家があるのに」
長男の洋平さん(仮名・41歳)は、父親の正雄さん(仮名・69歳)が住み替えを考えていると知り、すぐに反対しました。
正雄さんは妻を4年前に亡くし、築36年の戸建てで一人暮らしをしています。会社を退職後、月約15万円の年金で生活しており、預貯金は約1,800万円です。住宅ローンは完済していました。
洋平さんは妻子と分譲マンションに住み、実家を訪れるのは年に数回ほど。それでも、自分が育った家はいずれ相続するものだと考えていたといいます。
「子どもが大きくなったら、こっちに住む可能性もある。急いで売らなくてもいいだろう」
しかし、正雄さんが住み替えを考えたのには理由がありました。
戸建ては最寄り駅から徒歩25分。スーパーまでも距離があり、買い物には自転車を使っていました。2階は妻の死後、ほとんど使っていません。庭木の剪定を業者に頼むと年間約8万円かかり、外壁と屋根の補修には200万円前後が必要だと説明されていました。
さらに、ある年の夏、正雄さんは階段で足を滑らせました。大きなけがには至りませんでしたが、もし一人で動けなくなれば、誰にも気づかれない可能性があります。
「家が広いことを、ありがたいと思えなくなったんだ。使わない部屋を掃除して、壊れたところを直すために年金を使う。何のために一人で守っているのか分からなくなった」
正雄さんが選んだ住み替え先は、駅から徒歩10分ほどの場所にある賃貸の団地でした。築年数は古いものの、室内は改修済み。エレベーターがあり、スーパー、内科、郵便局にも歩いて行けます。
間取りは2DKで、家賃と共益費は月約5万5,000円。年金月15万円から支払えば余裕があるとはいえませんが、庭や外壁を管理する必要はなく、将来、大きな修繕費が発生する心配もありません。
総務省『令和5年住宅・土地統計調査』によると、高齢者のいる世帯の81.6%は持ち家に暮らす一方、高齢単身世帯では32.2%が借家に居住しています。持ち家を維持するだけでなく、生活に合った広さや立地の賃貸住宅へ移ることも、高齢期の住まい方の一つです。
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