「この家を守るのは誰なんだ」父が息子に伝えた現実
洋平さんは、戸建てを売れば家賃の負担が生じ、父親の財産も減ると心配していました。
「売らずに、ここで暮らせばいいじゃないか。修繕が必要なら、少しずつやればいい」
正雄さんは、外壁や給湯器の見積書、固定資産税、火災保険、庭の管理費をまとめた資料を息子に見せました。今後10年間で必要になる費用を概算すると、数百万円に達します。
「洋平は、この家を残してほしいと言う。でも、修理や草取りをするのは誰なんだ?」
そう尋ねると、洋平さんは黙りました。仕事や子どもの学校があり、近いうちに実家へ移る予定はありません。家の維持費を負担することについても、夫婦で話し合ったことはなかったのです。
総務省『家計調査報告(家計収支編)2025年平均結果』によると、65歳以上の単身無職世帯の可処分所得は月11万8,465円、消費支出は14万8,445円。平均では毎月の支出が手取り収入を上回っており、住居の修繕や家電の買い替えには、預貯金の取り崩しが必要になることもあります。
正雄さんは戸建てを売却しました。売却代金の一部は、団地の家賃や将来の医療・介護費に備えて管理しています。家具の多くを処分し、妻の写真や家族のアルバムなど、残したいものだけを新居へ運びました。
引っ越し後は、買い物や通院を徒歩で済ませています。団地内で顔を合わせる人も多く、自治会の清掃に参加したことをきっかけに、同年代の知人もできました。
「戸建てより狭いけれど、今の自分にはこれで十分です。家を売ったからといって、家族との思い出までなくなるわけではありません」
正雄さんの言葉を聞き、洋平さんもようやく住み替えを受け入れました。
持ち家は資産である一方、そこに暮らす人が維持費と管理を担う住まいでもあります。将来、子どもが使う可能性だけを理由に残せば、現在暮らしている親に負担が集中しかねません。高齢期の住まいを考える際には、資産価値だけでなく、広さ、立地、管理に必要な費用や体力まで含めて判断することが大切です。
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