「夏休みの間だけ」だと思っていた娘の帰省
和彦さん(仮名・71歳)と妻の恵子さん(仮名・71歳)は、夫婦合わせて月約25万円の年金で暮らしています。
住宅ローンは完済していますが、築30年を超えた自宅には修繕が必要な箇所もあります。預貯金は約1,600万円。年金の範囲で生活しながら、医療費や将来の介護、自宅の修繕に備えて貯蓄を減らさないようにしていました。
ある夏、44歳の娘・由佳さん(仮名)から連絡がありました。
「少し疲れたから、夏休みの間、そっちに行ってもいい?」
由佳さんは夫と小学5年生の息子との3人暮らしです。夫婦関係がうまくいっていないことは聞いていましたが、和彦さんたちは、母子で数週間帰省するだけだと考えていました。
帰省当日、由佳さんは息子と一緒に、大型のスーツケースや段ボール箱をいくつも運び込んできました。宅配便でも複数の荷物が届きます。
「ずいぶん持ってきたな。何泊するつもりなんだ?」
和彦さんが尋ねると、由佳さんはしばらく黙った後、こう答えました。
「向こうの部屋は、もう引き払ったから」
夫とは離婚に向けて話し合っており、賃貸住宅も退去したといいます。パートの仕事も辞め、息子の転校についても問い合わせを始めていました。
和彦さんたちは、そこで初めて、娘が一時的な帰省ではなく、実家で暮らすつもりだったと知りました。
「どうして先に相談しなかったんだ」
「相談したら反対するでしょう。でも、ほかに行く場所がなかったの」
由佳さんには、自分名義の預金が約50万円しかありませんでした。夫から毎月いくら生活費を受け取れるかも決まっておらず、今後の仕事や住居について具体的な見通しはありません。
それでも恵子さんは、孫を連れて出ていくようには言えませんでした。
「落ち着くまでなら、ここにいてもいいんじゃない?」
こうして、期間を決めないまま4人での生活が始まりました。
食費と光熱費は、以前より月5万円ほど増えました。由佳さんから生活費は受け取っていません。息子の学用品や衣類、外出費も、恵子さんが「孫のためだから」と支払うことが増えていきました。
家事の多くも恵子さんが担いました。由佳さんは求人を探していると話していましたが、応募は進まず、昼近くまで寝ている日もありました。
同居から2ヵ月が過ぎたころ、和彦さんは娘に今後の予定を尋ねました。
「仕事が決まるまで、ここにいたらいいと思ってる」
「その仕事を、いつまでに決めるつもりなんだ?」
「そんなふうに追い詰めないでよ」
話し合いはそこで終わりました。
厚生労働省『2024(令和6)年 国民生活基礎調査』によると、65歳以上の人のうち「子と同居」している人は33.1%です。親子の同居自体は珍しくありませんが、同居に至る事情や、家計を誰が負担するのかは世帯によって異なります。
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