「死後離婚」をしても、孫の相続権はなくならない
義父母との関係が悪化した相談者から、「姻族関係終了届」、いわゆる死後離婚について聞かれることがあります。配偶者の死後、市区町村への届出だけで義父母ら姻族との関係を終了できる手続きで、義父母の同意は不要です。
ただし、これには誤解されやすいポイントが2つあります。
1つは、「届出をすると子どもと義父母の関係まで切れる」という誤解です。終了するのは届出者本人と姻族の関係だけで、孫の代襲相続権はなくなりません。
もう1つは、「届出をしないと義父母の扶養義務を負い続ける」という誤解です。嫁や婿が当然に扶養義務を負うわけではなく、家庭裁判所が特別の事情を認めた場合などに限られます。
死後離婚は心理的な区切りにはなり得ますが、相続の権利関係を変える効果はほぼありません。感情的に届け出る前に、効果を正確に理解しておくべきでしょう。
生前にできた「4つの対策」
幸子さんの事例では、義父母との関係が良好なうちに取れた対策がいくつかあります。
1. 義父母に遺言を作成してもらう
嫁や婿も、遺言があれば財産を受け取れます。「長男の聡が先に死亡していた場合は、その妻・幸子に自宅を遺贈する」といった内容も可能です。実の娘同然の関係であれば養子縁組という選択しもありますが、ほかの相続人の遺留分や税負担(相続税の2割加算など)をふまえた設計が不可欠です。
2. 夫にも遺言を作成してもらう
夫名義の財産の行き先を明確にし、実家の改修費用を負担した経緯があれば、その根拠資料も整理しておきます。
3. 自宅の使用条件と費用負担を書面化する
無償で住むのか賃料を払うのか、修繕費は誰が負担するのか。多額のリフォーム費用を出すなら、合意書や振込記録、領収書を必ず残します。
4. 介護負担を一人に集中させない
役割分担と費用負担を事前に話し合い、介護サービスも活用します。相続人でない嫁や婿が介護の中心となる場合、介護内容や支出の記録が特別寄与料請求の生命線になります。
「家族だから分かってくれる」は、相続では通用しない
「家はいずれ息子である聡に渡す」「幸子さんも実の娘と同じだ」。―こうした言葉はあたたかいものですが、法的には何一つ権利を確定していませんでした。聡さんが先に亡くなることも、義父母の考えが変わることも、誰も想定していなかったのです。
相続対策は財産の多い家庭だけのものと思われがちですが、実際には、「他人名義の家に住んでいる」「名義人以外の家族もリフォーム費用を出している」「相続人ではない人が介護を担っている」といった家庭のほうが、深刻なトラブルに発展しやすいといえます。
配偶者の死後、義父母と嫁・婿をつなぐ法律上の関係は、驚くほど限定的です。だからこそ、配偶者が元気なうちに住まい、介護、費用負担、遺言について具体的に話し合っておく必要があります。
「家族なのだから、言わなくても分かる」
その思い込みこそが、相続発生後にもっとも大きな落とし穴となるのです。
佐伯 知哉
司法書士法人さえき事務所
代表
