父親の生命保険の受取人に、兄だけが指定されていた
「こんなの絶対おかしいだろ……」
松本友介さん(仮名・49歳)は、78歳で亡くなった父親の遺産を分割するために、兄の大介さん(仮名・52歳)と話し合いをしていました。母親はすでに他界しているため、相続人は友介さんと大介さんの2人です。
父親の遺産は、預貯金2,000万円と評価額2,000万円の自宅不動産を合わせて4,000万円。遺言書はありませんでした。
はじめは「兄弟で半分ずつ分けよう」という前提で話し合いを始めましたが、手続きを進めるうちに友介さんの知らなかった事実が判明します。
父親は生命保険に加入しており、死亡保険金は3,000万円でした。そして、その受取人に兄の大介さんだけが指定されていたのです。大介さんはすでに保険会社から3,000万円を受け取っていました。
友介さんは頭を抱えました。父親の遺産4,000万円を2人で半分ずつ分ければ、手元に残る財産はそれぞれ2,000万円のはずです。しかし実際には、兄である大介さんが3,000万円も財産を多く受け取っていました。
「父さんの保険料は、父さんのお金から払っていたはずだ。なのに、なぜ兄さんだけが得をするんだ?」
友介さんがそう感じるのも、無理はありません。
「生命保険は遺産ではない」?
ここで法律上の整理をしておきましょう。
生命保険の死亡保険金は、保険会社と契約者との保険契約に基づいて支払われるものです。「契約者・被保険者が父親、受取人が兄(大介さん)」という契約であれば、父親が亡くなると、大介さんが保険金を受け取る権利を取得します。
父親の財産が大介さんに引き継がれるのではなく、大介さんが自ら権利を得る――。この点が、預貯金や不動産の相続とは根本的に異なります。
そのため、大介さんが受け取った3,000万円の保険金は大介さん固有の財産であり、友介さんが「遺産として半分に分けよう」と求めることは原則としてできません。
また、遺産の相続を放棄した人でも、保険金に関しては受取人に指定されていれば受け取れます。保険金は「相続する」ものではなく、保険契約に基づく自分自身の権利として取得するからです。
遺産分割協議がまとまる前でも受取人が直接請求できるため、葬儀費用や当面の生活費を素早く確保したいときにも便利な仕組みです。
