義父名義の二世帯住宅に住み、義母を5年介護した妻
相談者の幸子さん(仮名・55歳)は、夫の聡さん(仮名・享年57歳)と結婚して28年になります。大学生と高校生の2人の子どもとともに、聡さんの義父母が所有する二世帯住宅で暮らしていました。建物は義父名義、土地は義父母の共有名義です。
結婚後、義父母から「いずれこの家は息子の聡に継がせる」と言われ、幸子さん夫婦は二世帯住宅へのリフォーム費用のうち、約400万円を負担。その後の改修費も合わせると、夫婦の支出は400万円を優に超えます。
さらに、義母に介護が必要になってからの5年間、病院への送迎や食事の介助、薬の管理といった面倒を見ていたのは主に幸子さんでした。義父からは「自分たちが死んだあとも、この家で暮らせばいい」と言われており、幸子さんは当然、将来は夫が実家を相続し、自分もここで老後を過ごすものと考えていました。
そのようなとき、聡さんが病気で急逝します。亡くなった直後は義父母も幸子さんと抱き合って泣いていたそうですが、四十九日を過ぎた頃から態度が変わり始めます。
「息子がいないのに、なぜ嫁がこの家に住み続けるのか」
「息子に家を継がせる話は、息子が生きていることが前提だった」
そして、最終的に義父は幸子さんに退去を求めたのです。
二世帯住宅のためのリフォーム費用を負担し、義母の介護までしてきた幸子さんは、義父の要求に納得がいきません。しかし法律上の権利関係を整理すると、非常に厳しい現実が次々と見えてきました。
嫁や婿は、義父母の「法定相続人」ではない
まず、嫁や婿は原則として義父母の法定相続人にはなりません。
民法上、相続人となるのは配偶者と子・直系尊属・兄弟姉妹(一定の順位による)であり、「子の配偶者」は含まれていないのです。何十年義父母と同居しても、介護をしても、それだけで相続人にはなれません。相続人の範囲は、親密さではなく法律上の身分関係で決まります。
「あなたを本当の娘だと思っている」と言われていたとしても、遺言や養子縁組といった法的な手当がなければ、実の娘と同じ相続権は生じません。反対に、長年疎遠だった場合でも、実子であれば相続権を持ちます。
相続では、「誰がいちばん世話をしたか」と「誰が相続人になるか」は一致しないのです。
子どもが先に亡くなっても、孫が「代襲相続」できる
一方、幸子さんの2人の子どもは将来、義父母の相続人となる可能性があります。義父母の子ども(聡さん)が親より先に亡くなった場合、その子ども、つまり孫が代わりに相続人となる「代襲相続」です。義父母が「嫁には自宅を渡したくない」と考えても、孫の相続権まで当然になくなるわけではありません。
ただ、これが対立を複雑にすることがあります。幸子さんの下の子はまだ未成年のため、直近で義父母の相続が発生すれば、遺産分割協議には親権者の幸子さんが法定代理人として関与する場面が出てきます。
義父母から見れば「関係の悪化した嫁が孫を通じて相続に入ってくる」ように映るかもしれません。しかし、幸子さんからすれば「自分の子どもの権利を守っているだけ」。この認識の食い違いが、争いを一層深刻にするのです。
なお、幸子さん夫婦に子どもがいなかった場合、義父母の相続人は亡くなった聡さん以外の子や義父母の兄弟姉妹となり、幸子さんが関与する余地はほぼありません。夫が相続するはずだった財産を妻が引き継げるとは限らないのです。
