(※写真はイメージです/PIXTA)

「親を一人にはできない」。そう考えて実家へ戻る人は少なくありません。しかし介護や見守りを一人で担い続ける生活は、少しずつ家族の心身を追い詰めることがあります。支え続けることと、自分の生活を守ること。その両立に悩む人は少なくないのです。

「ここにいたら、母を嫌いになる」娘が選んだ別居

転機になったのは、真理子さんが2泊の出張を命じられたときでした。

 

兄に泊まりに来てもらえないか頼みましたが、「仕事があるから難しい」と断られました。最後の頼みの綱だと思って節子さんにショートステイを勧めると、返ってきたのは強い拒絶でした。

 

「私を施設に放り込むつもりなの?」

 

出張は上司に事情を説明し、同僚へ代わってもらうしかありませんでした。その日の夜、兄から届いたメッセージには一言だけ書かれていました。

 

「同居しているんだから、そっちで何とかして」

 

真理子さんは台所で涙を流しました。母に腹を立てているのか、兄に失望したのか、自分でも整理がつきません。ただ、「このままでは仕事も母との関係も壊れてしまう」。その思いだけははっきりしていました。

 

翌月、真理子さんは地域包括支援センターへ相談に向かいました。地域包括支援センターは、市町村が設置する高齢者の総合相談窓口で、介護予防や権利擁護、必要なサービスにつなぐ支援を行っています。

 

担当者を交えた話し合いには、兄もオンラインで参加。節子さんには週2回の訪問介護と週1回のデイサービスを利用してもらい、配食サービスや緊急通報装置も導入することになりました。兄も費用の一部を負担し、月1回は実家に泊まると約束します。

 

真理子さんは、実家から電車で20分ほど離れた場所で新しい生活を始めることを決めます。

 

引っ越しの日、節子さんは玄関で「親を捨てて、自分だけ楽になるのね」と言いました。真理子さんは返事ができませんでした。

 

別居後も週末には実家を訪れ、通院にも付き添っています。不思議なことに、一緒に暮らしていた頃より穏やかに話せる日が増えていきました。

 

それでも帰宅すると、「本当にこれでよかったのか」と考える日はあります。

 

「母を見捨てたと思われても仕方ないのかもしれません。でも、あのまま同居を続けていたら、母のことを嫌いになっていたと思うんです」

 

真理子さんにとって別居は、母との関係を終わらせる決断ではありませんでした。これからも支え続けるために、一人で抱え込む暮らしを終わらせた選択だったのです。

 

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