「落ち着くまででいいから」娘と孫を迎えた夫婦
夕食を終えた午後8時過ぎ、玄関の扉が開きました。
「ただいま。ご飯、残ってる?」
娘の理恵さん(仮名・40歳)が、仕事から帰ってきたのです。母親の昌子さん(仮名・67歳)は、片づけたばかりの食器を再び棚から取り出しました。
理恵さんが中学生の息子を連れて実家へ戻ったのは、半年前。離婚後に住んでいた賃貸住宅の契約更新を前に、家賃を払い続けることが難しくなったためです。
元夫から養育費は受け取っていましたが、理恵さんのパート収入は月約12万円。家賃と光熱費、食費を払うと、ほとんど手元に残らない状態でした。
「落ち着くまで、こっちへ帰っておいで」
電話口でそう伝えたのは、昌子さんです。夫の正雄さん(仮名・68歳)も反対しませんでした。
夫婦の年金収入は月約25万円。住宅ローンを完済した戸建てで暮らし、預貯金も約2,300万円あります。二人だけなら、年金の範囲内でおおむね生活できていました。
理恵さんから生活費として月3万円を受け取ることにし、空いていた二階の2部屋を娘と孫に使わせました。
最初のうちは、久しぶりに食卓がにぎやかになったことを夫婦も喜んでいました。孫と夕食を囲み、学校での出来事を聞く時間は楽しいものでした。
ところが同居から2ヵ月ほど経つと、昌子さんの負担が増えていきます。
朝は4人分の食事を用意し、孫の弁当を作る日もありました。理恵さんは勤務時間を増やしたため、帰宅は午後8時を過ぎることが多く、洗濯や夕食の片づけは昌子さんが担うようになります。
「家に入れてもらっているんだから、手伝わないといけないとは思ってる。でも、仕事から帰ると何もする気になれなくて」
理恵さんは申し訳なさそうに言いました。
その言葉を聞くと、昌子さんも「じゃあ、やって」とは言えませんでした。娘が離婚後の生活に疲れていることは分かっていたからです。
一方、正雄さんは光熱費の請求書を見て驚きました。以前より電気代や水道代が増え、食費も月に4万円近く上がっていたのです。
総務省『家計調査(2025年)』によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯では、可処分所得が月22万1,544円である一方、消費支出は26万3,979円となっています。平均では、日々の支出が可処分所得を上回っています。年金月25万円の夫婦にとって、同居人数の増加による負担は決して小さなものではありません。
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