「あなたしかいないの」母の一言で実家に戻ったが…
「母を見捨ててしまいました」
そう口にしたのは、会社員の真理子さん(仮名・54歳)です。月収は手取りではなく額面で約42万円。独身で、都内の企業に勤めています。
真理子さんが実家に戻ったのは8年前でした。父を亡くしたあと、一人暮らしを続けていた母の節子さん(仮名・82歳)が自宅で転倒し、足を骨折したことがきっかけです。
退院直後だけのつもりでしたが、節子さんは「夜に一人になるのが怖い」「あなたしか頼れる人がいない」と訴えました。真理子さんには兄がいますが、遠方で妻子と暮らしており、帰省は年に数回です。
真理子さんは賃貸マンションを解約し、実家から通勤するようになりました。
当初、節子さんは身の回りのことをほぼ自分でできました。それでも真理子さんは、朝食を用意し、帰宅途中に買い物をし、休日には通院に付き添いました。
「夕飯はいらない」と連絡しても、「せっかく作ったのに」と不機嫌になる。休日に友人と出かけると、「私を置いて遊びに行くのね」と言われる。真理子さんは、母を刺激しないように予定を減らしていきました。
数年後、節子さんは要支援2の認定を受けました。歩行に不安があり、掃除や入浴には手助けが必要でしたが、訪問介護の利用を勧めると拒みました。
「知らない人を家に入れたくない。あなたがいるんだから必要ないでしょう」
真理子さんは出社前に洗濯を済ませ、帰宅後に入浴を見守りました。仕事で遅くなると何度も電話が入り、会議中でも着信が気になるようになりました。
内閣府『令和6年版高齢社会白書』によると、要介護者等から見た主な介護者は、同居者が45.9%を占め、そのうち女性は68.9%です。また、家族の介護や看護を理由に1年間で離職した人は約10万6,000人で、女性が75.3%を占めています。
収入を失う不安から仕事は辞めませんでした。しかし真理子さんの中では、会社にいる時間まで母の生活に拘束されている感覚が強くなっていきました。
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