お正月、義両親を招待して明かした「真実」
東京に戻った後も、井坂さんのモヤモヤは消えませんでした。世間体のためだけにやりたくもない会社員に戻るつもりはない。しかし、大切な家族に嘘をつき続けることもしたくない。
その葛藤を見かねた妻が、「今度のお正月にうちの両親を東京に呼ぼう。そこで全部正直に話そう」と提案してくれたのです。
迎えた翌年のお正月。義両親を招待し、井坂さん自身が腕を振るった豪華な手料理でおもてなしをしました。「こんなに料理ができるなんて、初めて知ったよ」――そう驚く義両親を前に、食後、井坂さんは意を決してノートパソコンと資料をテーブルに広げました。
「お義父さん、お義母さん。実は、昨夏にお話しできなかった本当のことがあります」
井坂さんは、前年3月末で退職していたことを明かしました。その上で、資産ポートフォリオ、年間の想定運用利回り、今後の生活費シミュレーションを分かりやすくまとめた資料を提示。
さらに、妻が自身の意思で仕事を続け、井坂さんが家事・育児を担うことが「我が家にとってのベストな選択」だと、丁寧に説明したのです。
「嘘をついていて、本当に申し訳ありませんでした」
頭を下げる井坂さん。室内には緊張した時間が流れます。やがて、義父は深く息を吐き、静かに口を開きました。
「……啓介くんがどれだけ計画的に家族の将来を考えているかは、よく分かった。孫がこんなに笑顔で、娘が楽しそうに働いているなら、それでいいよ」
義父は、論理的なデータと家庭の雰囲気を見て、納得したようです。義母も「最近は色々な働き方があるのね。何より、啓介さんの手料理が本当においしかったわ」と微笑んでくれ、井坂さんは心のつかえがようやく取れたのです。
