「何かあったら心配だから」娘から持ちかけられた住み替え
「お父さんたち、もう少し近くに住んだら?」
娘からそう言われたのは、信夫さん(仮名・71歳)と妻の裕子さん(仮名・71歳)が、これからの住まいについて話し始めたころでした。
夫婦の年金収入は月約32万円。金融資産は約4,900万円あります。以前は、娘夫婦の自宅から電車で1時間ほど離れた郊外の一戸建てで暮らしていました。
住宅ローンはすでに完済。スーパーや病院にも車で行けるため、すぐに困っていたわけではありません。それでも70歳を過ぎるころから、裕子さんは「この家にずっと住むのかな」と考えるようになりました。
きっかけの一つは、信夫さんが体調を崩したことです。
大事には至らず数日で回復しましたが、娘にそのことを話すと、「そういうとき、すぐ行けないのが心配なんだよね」と言われました。そこで娘から出たのが、近くへの住み替えという提案でした。
「最初は『じゃあ一緒に住む?』という話も出たんです。娘の家には空いている部屋もありましたから。でも私は、それは違うかなと思いました」
裕子さんが気になったのは、娘夫婦との関係が悪くなることではありません。
朝食をとる時間も、休日の過ごし方も違います。娘夫婦には自分たちの生活があり、夫婦にも長年続けてきた暮らしがあります。
「たまに泊まるのと、毎日一緒に暮らすのは全然違いますよね。今は仲がいいんだから、そのままでいたかったんです」
内閣府『令和5年度 高齢者の住宅と生活環境に関する調査』では、子どもがいる60歳以上に今後の同居・近居の意向を尋ねたところ、「同居ではなく近居したい」が32.8%で最も多く、「同居したい、同居を続けたい」の23.2%を上回りました。別居している子どものみがいる人では、「同居ではなく近居したい」が45.1%に上ります。
信夫さん夫婦も、娘と相談した結果、「同じ家ではなく、何かあれば行き来できる場所」を探すことにしました。
条件は、娘宅まで徒歩と電車で20分ほど。駅から近く、スーパーやクリニックが徒歩圏内にあること。そして、将来車を手放しても生活できることでした。
いくつかの物件を見た末に候補となったのが、駅前の中古タワーマンションでした。
「タワマンに住みたかったわけではないんですよ。駅に近くて、買い物も病院も歩いて行けて、娘のところにも行きやすい。それで探していたら、条件に合ったのがここだったんです」
内閣府の同調査では、住まいや地域で重視する条件として「医療や介護サービスなどが受けやすいこと」が61.4%、「駅や商店街が近く、移動や買い物が便利にできること」が54.1%となっています。
夫婦は長く暮らした一戸建てを売却し、60平方メートル台の2LDKへ移ることを決めました。
