「俺の金にたかるな」――通帳残高に固執する77歳男性
「俺が汗水垂らして残した金だ。お前らに一分(いちぶ)たりとも無駄遣いさせないぞ」
関東郊外の静かな住宅街。広い一戸建てに一人で暮らす昭三さん(仮名・77歳)は、家族への牽制を繰り返していました。
彼の総資産は約8,500万円。ローンを完済した自宅に加え、毎月21万円ほどの年金が振り込まれます。何不自由なく、むしろかなり贅沢に暮らせる経済状況といえるでしょう。
ところが、2年前に妻の澄子さんを亡くした頃から、昭三さんのお金への固執は過剰になっていきました。訪ねてきた長男家族との外食時も、頑なに財布を出そうとしません。
「奢らんぞ。自分の飯代くらい自分で払うのが当然だからな」
そんな昭三さんに、長男は心の中で「元々“締まり屋”だったけど、ここまでお金に固執するなんて、認知症が始まっているんじゃないか?」……内心、そんな心配をするようになっていったのです。
「全部『お金』にやってもらえばいい」…長男が見限った日
先々の介護や相続を心配した長男は、ある日、意を決して昭三さんの自宅を訪れました。
「父さんも70代後半だ。資産がいくらぐらいあるのか、通帳がどこにあるのか、不動産の権利証の場所くらいは共有しておかないか? 希望があるなら、元気なうちに遺言書を書いておいてもいいと思うんだ」
父の機嫌を損ねないよう、穏やかに伝えたつもりでした。しかし――。
「なにが『万が一』だ。俺の金を狙っているのか? ハイエナめ。……帰れ! 二度とこの敷居を跨ぐな」
あまりの言いぐさに、これまで父親を立てて我慢を重ねてきた長男の糸が、プツリと切れました。静かに立ち上がり、冷ややかな目で見下ろしながらこう言い放ちました。
「わかった。その代わり、病院の身元保証人も介護の手続きも、全部その『お金』にやってもらってよ。最後はその通帳も棺桶に入れてもらったら? 」
長男は静かに立ち去りました。事の顛末を聞いた長女も含めて、それ以来、子どもたちから連絡を取ることはなくなりました。
