(※写真はイメージです/PIXTA)

定年後は自然の近くで暮らしたい――そう考える人がいる一方、高齢になるほど買い物や通院など日常の利便性も無視できません。若いころに憧れた「広い家」や「車のある生活」が、年齢とともに負担になることもあります。老後の住み替えでは、何を手に入れるかだけでなく、何を手放すかも大きな決断です。

「あと10年維持できる?」庭付き戸建てを手放した夫婦

朝7時、達夫さん(仮名・70歳)と佳代子さん(仮名・70歳)は、マンションのベランダから海を眺めながら朝食をとります。以前の暮らしから最も変わったのは、車の鍵を探す必要がなくなったことだといいます。

 

夫婦の年金は合わせて月約25万円。子ども2人はすでに独立しています。

 

60代までは、郊外の庭付き戸建てで暮らしていました。駅までは徒歩では難しく、スーパーへ行くにも車で10分ほど。現役時代には不便を感じませんでした。

 

むしろ達夫さんは庭いじりが好きで、休日には植木を手入れし、佳代子さんも季節の花を育てていました。しかし70歳が近づくと、状況が変わります。

 

夏場の草むしりは朝早く始めても汗だくになり、高い枝の剪定は業者へ頼むようになりました。外壁や屋根の補修時期も迫っていました。

 

さらに夫婦が気にし始めたのが車です。

 

「今は運転できても、80歳になって同じように乗っているとは限らないよね」

 

佳代子さんの一言をきっかけに、夫婦は「車がなくても暮らせる場所」を探し始めました。候補になったのが、電車で都心にも出られる海沿いの街でした。

 

リゾート地のような場所ではありません。駅前にはスーパーやドラッグストアがあり、クリニックも複数あります。駅から徒歩8分ほどの中古マンションなら、海も見えました。

 

「海の近くに住みたい気持ちは昔からありました。でも、本当に決め手になったのは、車なしで生活できることでした」

 

戸建ては約4,600万円で売却。住宅ローンの残債や仲介手数料などを差し引き、手元には約2,200万円が残りました。

 

新居となる中古マンションの購入には、それまでの貯蓄も充てました。引っ越しを機に車も売却し、維持費や駐車場代もなくなりました。

 

内閣府『令和6年版高齢社会白書』の「高齢期における住み替えに関する意識について」によると、60歳以上で住み替えの意向がある人は約3割。住み替えを考える理由には、健康・体力面への不安や住宅の住みづらさに加え、交通や買い物の不便も挙げられています。

 

夫婦の決断も、「海辺で優雅に暮らしたい」という憧れだけから始まったものではありませんでした。

 

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