通帳に残った4,200万円を見て、夫婦が決めたこと
その日の夜、夫婦は久しぶりに預貯金や年金額を確認しました。これまで修一さんが最も気にしていたのは、「老後にお金が足りなくなったらどうするか」ということでした。
しかし洋子さんが尋ねます。
「じゃあ、いくら残っていれば安心なの?」
4,000万円でも不安なら、5,000万円になれば安心できるのか。もし5,000万円になっても、今度は6,000万円を残したくなるのではないか。
「貯めることばかり考えて、使う金額を一度も決めていなかったんです」
総務省『家計調査報告〔家計収支編〕2025年平均結果』では、65歳以上の夫婦のみの無職世帯は、月平均の可処分所得が22万1,544円なのに対し、消費支出は26万3,979円です。年金生活では、貯蓄を取り崩すこと自体は特別なことではありません。
修一さん夫婦も、それまで「資産が減る=悪いこと」と考えていました。しかし、貯蓄は残高を増やし続けるためだけにあるものではありません。
二人はまず、自宅の修繕や将来の生活費として残す金額を決めました。そのうえで、毎年一定額を旅行や趣味に使うことにしました。
最初に予約したのは、3泊4日の国内旅行です。以前なら価格の安いホテルから選んでいましたが、今回は駅に近く、部屋から景色を楽しめる宿にしました。
「昔みたいに海外を何ヵ国も回りたいとはもう思わないんです。でも、だからこそ、できることは今やろうと思うようになりました」
洋子さんも、以前から欲しかった家具を買い替え、友人との旅行へ出かけるようになりました。
「もっと使えばよかった」
修一さんが後悔しているのは、貯蓄をしたことではありません。60代のころに「まだ先がある」と考え、夫婦で楽しむためのお金まで使わずにいたことです。
老後資金には、将来への備えという役割があります。一方、年齢とともに、できることや楽しみ方は変わっていきます。必要な資金を確保したうえで、いつまでに何をしたいのか、そのためにいくら使うのかまで考えておくことも、老後のお金との向き合い方の一つといえるでしょう。
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