秋の夜、「しばらく泊めて」と突然やってきた娘
「今夜、ここに泊まってもいい?」
10月のある夜。敏夫さん(仮名・68歳)と妻の和美さん(仮名・66歳)が暮らす市営団地に、長女の真紀さん(仮名・39歳)が突然やってきました。
時刻は午後10時近く。真紀さんは小さなバッグを一つ持っただけで、顔には疲れがにじんでいました。
「夫とケンカでもしたのか?」
敏夫さんが尋ねても、真紀さんは詳しいことを話そうとしません。
「今は帰りたくないの。お願いだから、今日はここにいさせて」
結婚して12年。真紀さんには小学生の娘がいましたが、その日は夫側の実家に泊まっているといいます。
敏夫さん夫婦は、娘夫婦の仲がそれほど悪化しているとは知りませんでした。盆や正月には一家で顔を出し、夫も両親には礼儀正しく接していたからです。
和美さんが布団を準備している間、敏夫さんは落ち着きませんでした。
「夫婦なんだから、ちゃんと話したほうがいい」
「今日は無理」
「向こうも心配しているんじゃないのか?」
何度聞いても、真紀さんは「連絡しないで」と繰り返しました。
ところが、娘が風呂に入っている間に敏夫さんは、娘の夫へ電話をかけてしまいます。
「真紀、うちに来てるぞ。何があったか知らないけど、迎えに来て話したほうがいいんじゃないか」
1時間もしないうちに、夫が団地までやってきました。
玄関に立つ夫を見た瞬間、真紀さんの表情が変わりました。
「なんで呼んだの?」
「夫婦の問題なんだから、逃げてたって仕方ないだろう」
その夜、真紀さんは夫とは帰らず、知人に迎えに来てもらいました。玄関を出る直前、真紀さんは両親を振り返りました。
「連絡しないでって言ったよね。もう、ここにも来ない」
数日後、和美さんのスマートフォンに娘からメッセージが届きました。
「一生、許せないから」
その後夫婦は、娘が長期間にわたり、夫から行動を細かく確認されたり、生活費の使い道を厳しく管理されたりしていたことを知りました。真紀さんは離婚も視野に入れ、相談機関へ足を運んでいたのです。
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