(※写真はイメージです/PIXTA)

失業や離婚、心身の疲れなどをきっかけに、一度独立した子どもが実家へ戻るケースは少なくありません。しかし、滞在期間や生活費、家事の分担を決めないまま同居を始めると、親子双方が本音を言えず、不満だけが積み重なることもあります。

「落ち着くまで」のはずが…半年を過ぎても変わらない生活

正一さん(仮名・68歳)と妻の和美さん(仮名・67歳)は、二人で暮らしています。夫婦の年金は月24万円ほど。住宅ローンは完済していますが、固定資産税や医療費、古くなった自宅の修繕費を考えれば、余裕があるとは言い切れません。

 

二人の生活が変わったのは、32歳の娘・奈緒さん(仮名)が実家へ戻ってきた日からでした。

 

奈緒さんは一人暮らしをしながら事務職として働いていましたが、職場の人間関係に疲れ、退職。賃貸契約の更新時期も重なり、実家へ戻りたいと連絡してきました。

 

「少し休んで、次の仕事を探したいの。落ち着くまで置いてもらえないかな」

 

娘が弱っている様子を見て、夫婦は断れませんでした。

 

「ここは奈緒の家でもあるんだから、ゆっくり休めばいい」

 

正一さんはそう言いました。

 

最初のうち、和美さんも娘が帰ってきたことを喜んでいました。久しぶりに3人で食卓を囲み、奈緒さんの好物を作ります。

 

しかし1ヵ月、3ヵ月と過ぎても、再就職活動はなかなか進みませんでした。奈緒さんは昼近くまで眠り、起きると動画を見ながら食事をします。求人サイトを開くことはあっても、「今の自分にできる仕事がわからない」と応募には至りませんでした。

 

食費や光熱費は夫婦が負担していました。奈緒さんは退職時の貯金を持っていましたが、生活費を入れるという話は出ません。

 

「そろそろ、毎月いくらか入れてもらったほうがいいんじゃない?」

 

和美さんが夫に言うと、正一さんは答えました。

 

「今は仕事もないんだ。追い詰めたらかわいそうだろう」

 

一方で、正一さんも内心では不満を感じていました。夫婦二人なら簡単な食事で済ませられますが、娘がいると食材費が増えます。エアコンは日中もつき、洗濯の回数も増えました。

 

総務省『家計調査報告 2025年(令和7年)平均』によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯では、可処分所得は月22万1,544円、消費支出は26万3,979円で、平均では毎月4万円を超える不足が生じています。成人した娘の生活費まで負担し続ければ、老後資金の取り崩しが早まる可能性があります。

 

娘が戻って半年を過ぎた頃、和美さんが小さな声で言いました。

 

「いつまでいるの、とは言えないわね……」

 

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