スーパーも病院も遠い。それでも離れられない街
修一さん(仮名・78歳)と妻の久美子さん(仮名・77歳)は、40年以上前に購入した戸建てで暮らしています。
夫婦が移り住んだ当時、周辺は新しい住宅が立ち並ぶ郊外のニュータウンでした。駅前にはスーパーや銀行があり、住宅地の中には商店、診療所、郵便局もそろっていました。
「子どもを育てるには、いい場所だったよ」
修一さんは振り返ります。
ところが子ども世代が独立し、住民の高齢化が進むにつれて、街の様子は変わりました。近所の商店は次々に閉まり、最寄りのスーパーも数年前に撤退。現在は、車で15分ほど離れた店まで買い物に行かなければなりません。
路線バスも以前は1時間に数本ありましたが、今では時間帯によって間隔が大きく空きます。
「牛乳を一本買い忘れただけでも、すぐには買いに行けないんです。若い頃には考えなかった不便さですね」
夫婦は年金で生活しており、住宅ローンは完済しています。ただし、築年数を重ねた家には、給湯器や屋根、外壁などの修繕費がかかります。
離れて暮らす長男からは、数年前から住み替えを勧められていました。
「車に乗れなくなったら困るだろう。駅の近くのマンションを探したほうがいいんじゃない?」
修一さん自身も、運転をいつまで続けられるか不安を感じています。夜間や雨の日の運転は避けるようになり、買い物は週に一度、必要なものをまとめて購入するようになりました。
内閣府『令和7年版高齢社会白書』によると、65歳以上の人の外出時の交通手段は、都市規模が小さくなるほど「自分で運転する自動車」の割合が高くなります。公共交通が限られる地域では、自動車を手放すことが生活のしにくさに直結する場合があります。
ある日、久美子さんが玄関先で転び、足を捻挫しました。買い物へ行けなくなった夫婦を助けたのは、近所に住む同年代の住民でした。
「うちも車を出すから、一緒に買ってくるよ」
別の住民は、総菜や野菜を届けてくれました。便利な店は減っても、長年の付き合いは残っていたのです。
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