「ばぁばの家なら、何でもしてもらえる」
洋子さん(仮名・72歳)は、夫を亡くしたあと、一人で暮らしています。年金は月19万円ほど。持ち家で住宅ローンはなく、貯蓄も約1,500万円ありました。
生活にすぐ困る状況ではありませんが、築30年を超えた自宅には修繕が必要です。洋子さんは、今後の医療費や介護費も考え、無駄遣いを避けて暮らしていました。
長女一家は車で15分ほどの場所に住んでおり、小学生の孫が2人います。夫を亡くして間もない頃、孫たちが遊びに来ることは、洋子さんの大きな慰めでした。
「ばぁば、お菓子ある?」
「今日のご飯は何?」
孫たちのために菓子やジュースを用意し、昼食には好物のハンバーグやオムライスを作りました。公園へ連れて行き、雨の日にはボードゲームや工作の相手もします。
「ばぁばの家が一番楽しい」
そう言われると、洋子さんもうれしくなりました。
ところが、孫たちの訪問は次第に増えていきます。長女が休日に買い物や用事を済ませたいときだけでなく、特に約束がない週末にも、朝から孫だけを連れてくるようになりました。
「お母さんも孫に会いたいでしょう? 夕方に迎えに来るから」
洋子さんは断れませんでした。玄関に立つ孫を前に「今日は無理」とは言いにくく、長女にも「一人で暇だと思われているのかもしれない」と感じていたからです。
孫が来る日は、いつもより多く食材を買います。二人分のおやつや昼食だけでなく、外出すれば入場料や外食費もかかりました。
「ばぁば、これ買って」
玩具売り場で頼まれると、つい財布を開いてしまいます。長女から費用を渡されることはほとんどありませんでした。
総務省『家計調査報告 2025年(令和7年)平均』によると、65歳以上の単身無職世帯では、可処分所得が月11万8,465円であるのに対し、消費支出は14万8,445円です。洋子さんの年金は平均を上回りますが、家の修繕や将来の介護に備える必要があるなか、毎週の出費を軽く考えることはできません。
ある土曜日、孫たちは昼食をほとんど残したまま言いました。
「夜はお寿司がいい」
朝から料理と片づけを繰り返していた洋子さんは、すぐに返事ができませんでした。
「お菓子も、ご飯も、遊び相手も……。私は何でもしてあげられるわけじゃないのに」
言葉にはしませんでしたが、初めてそんな思いが浮かびました。
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