「いつまでいるの?」と言えなかった夫婦の決断
転機になったのは、奈緒さんが友人との旅行を計画していると知ったときでした。
「来月、友達と温泉に行ってくるね」
楽しそうに話す娘に、正一さんは思わず尋ねました。
「旅行へ行く余裕はあるのか?」
奈緒さんの表情が曇りました。
「自分の貯金から出すよ。ずっと家にいるんだから、気分転換くらいいいでしょう」
「それなら、家にも少し生活費を入れられるんじゃないか」
奈緒さんは黙り込み、部屋へ戻りました。
和美さんは夫を責めませんでした。ただ、このまま何も決めなければ、親子関係まで悪くなると感じました。
翌日、夫婦は奈緒さんと話し合いました。
「出ていけと言いたいわけじゃない。ただ、いつまで休むのか、これからどうするのかを一緒に考えたいんだ」
奈緒さんは、実家に戻れば何も考えずに休めると思っていたこと、就職活動で不採用になるのが怖く、応募を避けていたことを打ち明けました。
話し合いの結果、実家で暮らす期限をさらに6ヵ月と決めました。それまでの間、奈緒さんは貯金から月3万円を生活費として入れ、掃除と週3回の夕食づくりを担当します。毎週決まった時間に求人を探し、ハローワークにも相談することにしました。
ハローワークでは、求人紹介だけでなく、職業相談や応募書類の作成、応募先との調整などの支援も受けられます。窓口に加え、オンラインで求職登録や相談ができる地域もあります。
奈緒さんは当初、「期限を決められるなんて、追い出されるみたい」と反発しました。しかし、自分でも終わりの見えない生活に焦りを感じていました。
相談を重ねた結果、以前と同じ正社員だけに絞らず、紹介予定派遣や契約社員も含めて探すことにしました。数ヵ月後、奈緒さんは小さな会社の事務職に採用されます。
すぐに一人暮らしへ戻るのではなく、最初の給与から転居資金を積み立て、入社から4ヵ月後に実家を出る計画を立てました。
「ずっと置いてもらえると思って、甘えてた」
奈緒さんの言葉に、和美さんは答えました。
「私たちも、傷つけたくなくて何も言えなかったのよ」
親が黙って負担すれば、子どもも現状を変えるきっかけを失います。滞在期間や費用、家事、今後の目標を話し合うことは、親子が再び自立した関係に戻るための第一歩だったのです。
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