節税スキームが封印…令和8年度税制改正で示された“厳格姿勢”
「借入金で収益不動産を購入し、時価と相続税評価額の差を利用して遺産総額を圧縮する」という手法は、相続税対策としてこれまで長いあいだ用いられてきました。しかし、令和8年度税制改正大綱では、この「評価乖離」を意図的に利用した租税回避的な行為を、課税の公平性の観点から厳格に抑制する方針が明確に示されました。
これまでのように「相続が近づいたら不動産を買えばいい」という考えは、通用しなくなります。この相続開始直前の“駆け込み取得”については、従来の路線価ベースではなく、市場価格(時価)に基づく厳格な評価が適用されることになったのです。
今回の改正で特に重要なポイントは以下の2点です。
・貸付用不動産:取得から「5年以内」に相続・贈与が発生した場合、原則として時価(通常の取引価額)で評価される。
・不動産小口化商品:取得時期にかかわらず、常に時価評価へ移行する。
なぜ今回、賃貸マンションやアパートといった「貸付用不動産」の評価が見直されたのでしょうか。背景には、時価と税務評価額(路線価等)の“乖離”を利用した極端な評価圧縮が、預貯金で相続する納税者とのあいだに著しい不公平を生んでいたという問題があります。
通常、不動産の相続税評価額は時価の7〜8割程度(路線価ベース)に設定され、さらに貸付用不動産であれば、借地権割合や借家権割合による評価減が適用されます。その結果、時価の3〜4割程度まで評価が下がるケースもありました。
この仕組みを悪用し、相続が近づいた段階で多額の借入を行って不動産を取得し、相続発生後すぐに売却して現金化するという手法が常態化していたのです。
来年1月から新たに導入される不動産相続の「5年ルール」
令和9年(2027年)1月1日以後の相続・贈与から適用される新ルールの概要は以下のとおりです。
・対象物件:被相続人等が相続開始(または贈与)前5年以内に対価を得て取得・新築した貸付用不動産
・評価の原則:従来の路線価評価ではなく、「通常の取引価額(時価)」で評価
・「通常の取引価額」の算定方法:取得価額を基準にし、地価の変動等を考慮した金額の80%を目安に算出
たとえば、相続発生の2年前に1億円で賃貸マンションを取得したケースを考えてみましょう。現行制度では、「路線価評価+貸付用評価減」により、評価額は約4,000万円(約60%圧縮)となります。
この点、改正後(取得から5年以内)は、取得価額1億円を基準に80%ルールが適用されます。したがって、地価変動がない場合、評価額は8,000万円となります。この差額4,000万円に対し、相続税率が40%であれば、納税額は1,600万円増加する計算です。まさに「節税メリットが半減する」劇的な変化といえます。さらに、取得後に地価が上昇していれば、評価額は8,000万円を上回る可能性もあります。
ただし、一定の猶予措置も設けられています。通達の改正日までに、改正日の5年前から継続して所有している土地の上に新築された家屋(建築中を含む)などについては、従前どおりの評価が維持される場合があります。
