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手術の成功率90%・手術の失敗率10%→どちらの医師を選びたい?
眼の錯覚は有名です。同じ大きさのパンなのに、大小の皿に載せて並べるとパンの大きさが異なって見える…といった話はよく耳にします。それと同様に、脳も錯覚するのです。たとえば、非常に小さな確率は実際より大きく感じられるので、宝くじが当たりそうな気がしてワクワクしたり、飛行機が落ちるのではと思い怖くなったりするわけですね。
こうした錯覚は、人類が進化する過程で「そのほうが生き残りに便利だった」から存在するわけですから、錯覚をすること自体は正しく進化した証であって恥ではありません。ただ、錯覚することを知っていないと思わぬ損を被ったりするので、注意が必要です。
たとえば「私の手術の成功率は90%を誇っています。昨日の手術も大成功でした」という医師と「私の手術は、10回に1回は失敗してしまいます。昨日も失敗してしまいました」という医師がいたとしたら、前者の医師に依頼したくなりますね。でも、後者の医師のほうが費用が安かったら、後者に頼みましょう。
たとえば、人間の脳は損したときの悲しみのほうが、儲かったときの喜びより強く感じるので、確率5割強の儲け話があってもチャレンジする人は稀です。これはもったいない話ですね。たとえば「多くの銘柄の株式を少しずつ買えば(投資信託を買えば)、上がる株のほうが下がる株より多くて儲かるはず」といった工夫をすることで、チャンスを逃さずにすむかもしれませんよ。
返品自由の通信販売が儲かる理由
通信販売で「返品自由」と謳っている例を見かけます。返品が多くて損をしてしまうリスクがありそうですが、実際には返品はそれほど多くないそうです。それは、人間の脳が「1度自分のものになったら手放すのが惜しくなる」からだそうです。
たとえば、学生にマグカップを見せて「何ドルなら買いたいか」と聞く場合よりも、学生にマグカップを渡してから「何ドル出せば売ってくれるか」と聞くほうが高い金額を答える、という実験があるそうです。
そうだとすれば、1度自宅に届いた商品を「返品するのは惜しい」と感じてそのまま使い続ける人が多いのも納得ですね。もちろん、返品が面倒だ、ということもあるでしょうし、日本人の場合には「返品するのは申し訳ない」という気持ちも加わるのだろうと思います。
ちなみに、改革が容易ではない原因のひとつが、この錯覚かもしれません。改革によって「利益を得る人」と「既得権益を失う人」が出てくるわけですが、既得権益を奪われる人にとっての不快感は非常に大きく、激しく抵抗する可能性が高いからです。マグカップをAから取り上げてBに与えることを考えれば、Bの感謝よりAの抵抗のほうが大きいでしょうから。
子どもに勉強させるには
子どもに「勉強しなさい」と言う親は多いでしょうが、その際に少し工夫をしてみましょう。たとえば、「よい点をとったらオモチャをあげよう」といったインセンティブ(動機)を与えるのです。真面目に勉強したか否かをチェックするのは容易ではないので、結果(試験の点数等)で評価するのがよいでしょう。
その際の工夫として、先にオモチャをあげてしまい、「悪い点をとったら取り上げる」と言い渡しておく、という選択肢も検討しましょう。1度手にしたオモチャを取り上げられる悔しさのほうが、オモチャをもらえる嬉しさより強く感じるとすれば、その悔しさを利用するわけです。
もっとも、「先にオモチャを渡してしまったが故にオモチャで遊びすぎて勉強しなかった」ということがないように、工夫が必要です。それから、試験のたびに悪い点を取り続けて、オモチャを取り上げては渡し、取り上げては渡している間に子どもがオモチャへの興味を失ってしまうというリスクもあるので、あまり高いオモチャは買わないようにしましょう(笑)。
賃上げよりボーナス
企業が儲かったときに給料を上げてしまうと、儲からなかったときに給料を下げるのは容易ではありません。社員が高い給料を既得権だと考えてしまうと、それを奪われることに強い抵抗を感じかねないからです。
「ボーナスは1回限りの大盤振る舞いで、次はどうなるかわからない」と社員に言い聞かせておけば、儲からなかったときにボーナスを支給しなくても不満は小さいでしょうから。
もっとも、経営者に対しては、これを逆に利用することができるかもしれません。先にボーナスを支払ってしまい、「会社が儲からなかったらボーナスを返せ」と言っておくのです。1度手にしたボーナスを手放したくない社員は、必死に働くことでしょう。
「成功したら報酬を支払う」という仕事の頼み方をする場合には、同様の工夫が可能かもしれません。先に報酬を支払ってしまって、「失敗したら返せ」と言っておくと、真面目に働いてくれるかもしれませんよ。
選挙前、バラマキ的な公約をする候補者は多くいます。当選した時点で国民が公約内容を既得権だと理解するなら、それを奪われることへの抵抗が激しいはずなのですが、そうなっていないのはなぜなのでしょう…? もしかすると、国民は公約が実行されると信じていない(既得権があるとは考えていない)からなのかもしれませんね。そうだとすればちょっと残念なことです。
今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。
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塚崎 公義
経済評論家
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