「かわいい」だけでは続かない…祖父母にも必要な線引き
転機となったのは、夫婦で計画していた北海道旅行の直前でした。長女から電話があり、孫の保育園が休園になったため、数日間預かってほしいと言われたのです。
美代子さんは、すぐには返事ができませんでした。
「その日は旅行なの」
そう伝えると、長女は困った声で言いました。
「えっ、どうしても無理? 仕事を休めないんだけど」
電話を切った後、美代子さんは涙ぐみました。
「私たちの予定は、いつも後回しなのね」
隆夫さんも、その言葉に胸が詰まりました。孫はかわいい。長女夫婦を助けたい気持ちもあります。しかし、二人の老後は、孫のためだけにあるわけではありません。
厚生労働省の「地域子ども・子育て支援事業」では、放課後児童クラブやファミリー・サポート・センター事業など、地域全体で子育てを支える仕組みが設けられています。実際には祖父母が日常的な預かりや送迎を担っている家庭もありますが、その負担が見えにくいまま続くこともあります。
後日、隆夫さん夫婦は長女夫婦と話し合いました。
「預かりたくないわけじゃない。でも、毎週のように予定が入ると、私たちの生活がなくなってしまう」
話し合いの結果、預かる日は週2回までに決めました。急な預かりは、まず長女夫婦が職場や地域の支援制度を確認する。食事や送迎にかかる費用も、必要に応じて渡してもらう。祖父母の旅行や予定は、原則として優先することにしました。
最初は少し気まずさもありました。しかし、線引きをしたことで、孫と会う時間はむしろ穏やかなものになりました。疲れ切った状態で預かるのではなく、余裕のある日に一緒に遊べるようになったからです。
「孫のためなら何でもしてあげたいと思っていました。でも、それでは長く続かないんですね」
隆夫さんはそう話します。
老後資金に余裕があったとしても、時間や体力には限りがあります。年金月33万円、貯蓄5,000万円という数字だけを見れば、恵まれた老後に見えるかもしれません。しかし日々の予定が孫中心になれば、夫婦が望んでいた暮らしは少しずつ遠のいていきます。
祖父母の協力は、子育て世帯にとって心強い支えです。ただしそれが当たり前になれば、親世代の生活や健康にも影響します。
孫をかわいがることと、すべてを引き受けることは違います。
隆夫さん夫婦が学んだのは、断ることは冷たさではなく、家族関係を長く続けるための大切な線引きだということでした。
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