(※写真はイメージです/PIXTA)

年金をいつから受け取るかは、老後の生活設計に大きく関わります。受給開始を遅らせる「繰下げ受給」を選べば、年金額は増え、その増額率は生涯続きます。一方で、受け取らない期間の生活費、税金や社会保険料、健康状態の変化まで考えなければ、思っていたほど得にならないと感じることもあります。

増えた年金、減った貯蓄…「得」の見方が変わった瞬間

年金額が増えたことで、和夫さんの家計は一見安定したように見えました。

 

しかし、実際に振り込まれる金額を確認すると、思っていたより手取りは少なく感じました。年金額が増えれば、所得税や住民税、介護保険料、国民健康保険料などに影響する場合があります。もちろん人によって負担は異なりますが、「額面が増えた分だけ自由に使える」とは限りません。

 

さらに、和夫さんにとって大きかったのは健康状態の変化でした。

 

70歳を前に膝を痛め、長距離の旅行が難しくなりました。65歳で退職した直後は、夫婦で旅行に行くつもりでした。しかし年金を繰り下げている間は、貯蓄の減少が気になり、大きな支出を控えていたのです。

 

「年金が増えたころには、行きたい場所に気軽に行けなくなっていました」

 

和夫さんは、通帳を見ながらつぶやきました。

 

「65歳からもらえばよかったのかもしれないな」

 

繰下げ受給そのものが悪いわけではありません。長く働ける人、十分な貯蓄がある人、健康に不安が少ない人にとっては、有効な選択肢になることがあります。増額率が生涯続く点も大きなメリットです。

 

ただし、繰下げは「待てば必ず得」という単純な話ではありません。

 

65歳から70歳まで受け取らなかった年金を、増額後の年金で取り戻すには時間がかかります。その間に貯蓄を大きく取り崩せば、老後資金全体の安心感は薄れることがあります。さらに、健康状態や家族の状況が変われば、「お金を使える時期」そのものが短くなることもあります。

 

和夫さん夫婦は、その後、家計を見直しました。毎月の固定費を整理し、医療費や住宅修繕費の予備費を分けました。旅行も遠方ではなく、近場の温泉や日帰りに変えました。

 

年金の繰下げ受給は、老後資金を増やすための有力な選択肢です。しかし、判断する際には、増額後の年金額だけでなく、繰下げ期間中の生活費、貯蓄の減り方、税や社会保険料、健康状態、家族の予定まで含めて考える必要があります。

 

老後のお金は、ただ多ければよいわけではありません。必要な時期に、必要な形で使えることも大切です。

 

「もっと増えるはず」という期待だけで決めるのではなく、「いつ受け取り、いつ使うのか」まで見通すことが、後悔しない年金選びにつながるのかもしれません。

 

 

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