ゴールドオンライン新書最新刊、Amazonにて好評発売中!
トランプ劇場と超富裕層課税 増税か、減税か――税制が映し出すアメリカの真実
奥村眞吾(著)+ゴールドオンライン(編集)
シリーズ既刊本も好評発売中 → 紹介ページはコチラ!
「凍結」ではなく「制約」という現実
ある日突然、親の預金が使えなくなる。
それは詐欺でも差し押さえでもなく、誰かの悪意によるものでもない。金融機関が「本人確認や意思確認に支障がある可能性がある」と判断した結果として、取引が慎重に扱われることで生じる現象である。通帳上には十分な残高がありながら、介護費用の支払いも、不動産の修繕も、生活費の引き出しも思うようにいかなくなる。いわゆる「資産が動かない状態」が、静かに日常の中へ入り込んでいる。
この現象は、法律上明確に一律の「凍結措置」が存在するわけではない。しかし実務上は、成年後見制度の利用が必要になる局面や、本人確認が困難と判断される場面において、結果として資金移動が制約されるケースが増えている。
1,400兆円と認知症リスクの交差点
背景にあるのは、日本社会の構造変化である。個人金融資産は約2,200兆円規模に達し(日本銀行「資金循環統計」)、その約6割が60歳以上の高齢世代に集中している(日本総合研究所試算)。
約1,400兆円という巨大な資産が高齢者層に存在する一方で、その層は同時に認知機能の低下リスクが高まる年齢帯にある。この「資産の集中」と「判断能力の低下」が同時に進行している点に、この問題の本質がある。そして、この構造が最も複雑な形で現れる領域の一つが、養子縁組をめぐる現実である。
養子縁組という選択肢――支援関係の制度化
以下は、実務でしばしば見られる構図だ。
ある地方都市の80代男性。長年にわたり地域で事業を営み、一定規模の資産を築いてきた。妻に先立たれた後は一人暮らしとなり、日常生活の多くを外部の支援に依存するようになっていた。子どもはいるものの遠方で生活しており、日常的に深く関与する関係ではなかったため、次第に地域の支援者や知人との関係が生活の中心になっていった。
そのなかで、ある人物が継続的に生活支援に関わるようになる。買い物の補助や通院の付き添いなど、当初は日常的な支援関係として始まったものだったが、時間の経過とともに、その関係は徐々に「家族に近いもの」として認識されるようになっていく。
支援を受ける側にとっては、日常生活を支える存在としての安心感があり、支援する側にとってもまた、継続的な関係性の中で一定の責任や負担意識が生まれていく。その過程で、「この関係をどのように整理するか」という問題が現実的なテーマとして浮上する。その延長線上で、養子縁組という制度が選択肢として検討されることがあるのだ。
法律上、成人同士の養子縁組は可能であり、届出が受理されれば戸籍上の効力は発生する。ただし、その有効性が後に争われる場合には、届出時点における意思能力の有無が司法判断の対象となる。したがって、このような事例を単純に「不正」や「悪用」として捉えることは実態に即していない。
現場で見られるのは、むしろ動機の重なりである。長期的な支援関係の中で生じる心理的負担、関係性を明確にしたいという双方の意向、将来の介護や相続をめぐる不安、それらが複合的に作用した結果として制度利用が選ばれる。つまりそこには、明確な線引きが難しい「生活関係の制度化」という側面が存在している。
関係が「法的意味」を持つとき
しかし時間が経過し、本人の認知機能が低下していく場合、この関係は後から大きな意味を持つことになる。
家族が事実を知るのは、多くの場合その後である。そのとき初めて、戸籍上の関係変化が相続構造に影響を与えていることが認識される。そして家族の受け止め方は必ずしも一致しない。長年の生活関係の延長と見るか、想定外の変化と見るかによって評価は大きく分かれる。
ここで問題となるのは、個別の善悪ではない。むしろ、生活の中で形成された関係性が、どの時点で法的な関係へと変換されるかという「時間軸」の問題である。
金融取引の領域では、本人確認や意思能力に疑義が生じた場合、取引は制限される。一方で、身分関係の変更は届出受理を基礎として成立し、事後的にその有効性が争われる構造となっている。この非対称性が、結果として「後から説明を要する関係」を生み出し、相続発生後に初めて、その関係が法的な意味を持って現れることになる。
相続は「死亡時の出来事」ではなくなった
本来、相続は死亡によって開始する制度である。しかし実務の現場では、認知症の進行によってその前段階から問題が始まっている。財産管理、契約行為、遺言作成といった一連の意思決定が制約されることで、本人の意思は徐々に社会の中で可視性を失っていく。
その結果として起きているのは、相続が「死亡時の出来事」ではなく、「認知症発症後から続く長期プロセス」へと変質しているという事実である。
遺言が存在していても安心はできない。公正証書遺言であっても、作成時点の判断能力が争点となれば、その有効性が問題となることがある。形式の強さと意思能力の有無は必ずしも一致しない。
さらに事業承継の領域では、この問題はより顕著になる。オーナー経営者が認知症を発症すれば、自社株の移転や後継者への承継が進まないまま時間だけが経過し、経営そのものが停止することもある。死亡ではなく、認知症が企業活動の停止要因となる局面が現れているのだ。
失われているのは、資産ではなく意思である
この問題の本質は、財産の多寡ではない。失われているのは資産そのものではなく、本人の意思であり、家族の合意形成であり、将来を決定するための前提条件である。そしてその前提条件は、ある瞬間に消失するのではなく、時間の経過とともに徐々に変質していく。
だからこそ問われているのは、個別の制度の選択ではない。判断能力がある段階で、どのように関係性と財産構造を設計しておくかという点にある。
日本社会はこれから、「資産を持つ認知症社会」へと本格的に移行していく。その中で本当に問われるべきは税制ではなく、本人の意思をどの段階で、どのように社会制度の中に固定しておくかという問いなのである。
THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班
【注目のセミナー情報】
【資産防衛】6月17日(水)オンライン開催
《財務・資産承継戦略》
令和版「お宝保険」の正体とポテンシャルは?
【資産運用】6月18日(木)オンライン開催
《決算対策・財務戦略》
2026年版・太陽光投資の“4つのメリット”
\6月16日(火)開催/
「相続税の税務調査」
調査対象に選ばれる人・選ばれない人
ゴールドオンライン・エクスクルーシブ倶楽部が
主催する「資産家」のためのセミナー・イベント
【6月16日開催】
海外移住で圧倒的節税!海外金融機関の活用法
~どんな人が海外移住で節税のメリットを享受できるのか~
【6月17日開催】
資産規模5億円以上の方のための
「資産管理会社」のつくり方・つかい方<第3回/不動産編>
【6月18日開催】
キャピタルゲインも期待できる環境に!
「債券投資」のタイミングと具体的な取り組み方
【6月20日-21日開催】
純資産1億円超の地主・資産家の方向け
なぜ、地主の手元には「現金(キャッシュ)」が残らないのか?
