(※写真はイメージです/PIXTA)

収入が高くても、家計の全体像を夫婦で共有していなければ、思わぬところで資産が減っていることがあります。特に定年前後は、退職金や老後資金への不安が強まり、「少しでも増やしたい」という気持ちが先走りやすい時期です。家族のためを思った行動が、結果として家計を大きく揺るがすこともあります。

「増やすつもりだった」…老後不安が招いた夫婦の亀裂

由紀子さんにも、悪意があったわけではありませんでした。子どもの教育費が終わり、住宅ローンも完済したころ、由紀子さんは老後資金への不安を強く感じるようになっていました。

 

「年金だけで足りるのかな」

「医療費や介護費がかかったらどうしよう」

「あなたの収入が下がったら、今の生活は続けられないかもしれない」

 

そうした不安を、一郎さんにはうまく言えませんでした。

 

総務省『家計調査(2025年)』によると、65歳以上の夫婦のみ無職世帯では、可処分所得約22.2万円に対し、消費支出は約26.4万円で、平均では毎月約4.2万円の不足となっています。年金生活では、日々の生活費だけでも貯蓄を取り崩す世帯が少なくありません。

 

由紀子さんは、その不足を埋めるために「少しでも増やしたい」と思ったのです。

 

しかし、紹介者との連絡は次第に取りにくくなりました。分配金も止まり、返金を求めても「手続き中」と言われるばかり。一郎さんが契約書を確認すると、内容は曖昧で、元本保証を示す明確な記載もありませんでした。

 

「何で相談してくれなかったんだ」

 

一郎さんが責めると、由紀子さんは泣きながら答えました。

 

「あなたは仕事で疲れていて、お金のことは全部私に任せていたでしょう。私も何とかしなきゃと思ったの」

 

その言葉に、一郎さんは黙り込みました。

 

もちろん、勝手に大きなお金を動かした由紀子さんの責任は重いものです。しかし、家計を任せきりにし、老後資金の不安を夫婦で共有してこなかった自分にも責任があると感じました。

 

金融広報中央委員会『家計の金融行動に関する世論調査(2023年)』でも、老後の生活について心配している世帯は多く、その理由として「十分な金融資産がないから」「年金や保険が十分ではないから」「物価上昇への不安」などが挙げられています。

 

不安そのものは珍しいものではありません。問題は、その不安を夫婦で話し合わず、外部の甘い言葉に委ねてしまったことでした。

 

一郎さん夫婦は、消費生活センターや弁護士に相談することにしました。契約内容や送金記録を整理し、今後の対応を確認する必要がありました。

 

同時に、夫婦は家計の管理方法を変えました。毎月一度、口座残高、支出、保険、投資状況を一緒に確認する。夫婦どちらか一方の判断で大きなお金を動かさない。内容を説明できない投資には手を出さない。退職金の使い道も、あらかじめ話し合うことにしました。

 

老後資金を増やしたいという気持ちは自然です。しかし、焦りや不安につけ込む投資話もあります。大切なのは、夫婦で家計を共有し、分からないものには手を出さないことです。

 

定年が近づいたときに必要なのは、一発逆転の運用ではありません。いまある資産を正確に把握し、守りながら使うための冷静な話し合いなのかもしれません。

 

 

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