「見捨てる」のではなく、共倒れを避けるための別居
真由美さんが限界を感じたのは、会社で小さなミスが続いたころでした。
会議の資料を取り違え、取引先への返信を忘れる。夜眠れず、朝になると動悸がする。上司から「少し休んだほうがいいのでは」と言われたとき、真由美さんは初めて、自分が相当疲れていることに気づきました。
「このままだと、私が働けなくなる」
そう思い、地域包括支援センターに相談しました。母の状態を伝えると、介護保険サービスの利用や、見守り体制の整備、将来的な住まいの選択肢について説明を受けました。
内閣府『令和7年版高齢社会白書』では、65歳以上の一人暮らしの人は増加しており、令和7年時点で65歳以上人口に占める一人暮らしの割合は男性18.3%、女性25.4%と推計されています。高齢の親が一人で暮らすこと自体は、珍しいことではありません。大切なのは、家族だけで抱え込まず、必要な支援につなげることです。
真由美さんは、照子さんに別居を提案しました。母は最初、強く反発しました。
「私を追い出すの?」
「親不孝だと思わないの?」
真由美さんは泣きながら答えました。
「親不孝かもしれない。でも、このまま一緒にいたら、私も母さんも壊れてしまう」
話し合いの末、照子さんは高齢者向けの賃貸住宅に移ることになりました。家賃はかかりますが、見守りサービスがあり、買い物や通院の支援も受けやすい場所です。真由美さんは毎週末に訪ね、平日は電話で様子を確認する形に変えました。
親の生活を支える方法は、同居だけではないのです。
別居後、照子さんはしばらく寂しそうでした。それでも、近所の人と話す機会が増え、配食サービスも利用するようになりました。真由美さんも、仕事帰りに自分のための時間を少しずつ取り戻していきました。
親を思いやることと、自分自身の生活や将来を犠牲にすることは、イコールではありません。介護や見守りは、家族の愛情だけで続けられるものではなく、時間、体力、お金、心の余裕が必要です。
同居を終わらせる決断は、冷たい選択に見えるかもしれません。しかし、共倒れを防ぎ、親子の関係を守るために、距離を置くことが必要な場合もあります。
親のために何ができるかを考えるとき、自分がどこまでなら続けられるのかも同時に考えることが大切なのかもしれません。
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