建て替えれば節税できます。1.3億円の借入提案に心躍る70代地主夫婦だったが…「華やかなシミュレーション」に待ったをかけた意外な人物【相続の専門家が解説】

建て替えれば節税できます。1.3億円の借入提案に心躍る70代地主夫婦だったが…「華やかなシミュレーション」に待ったをかけた意外な人物【相続の専門家が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

「相続税対策になります」「今なら1.3億円の融資が受けられます」──。代々土地を守ってきた70代地主のYさん夫妻のもとには、老朽化したアパートの建て替えを勧めるハウスメーカーの営業が何度も訪れていました。しかし、その一方でYさんの胸にあったのは、「この歳で巨額の借金を背負って、本当に大丈夫なのか」という拭えない不安でした。老後資金に余裕があるわけではなく、相続税の納税資金にも悩みを抱えるなか、そんなYさんの不安を察したかのように“待った”をかけたのは、意外な人物だったのです。相続実務士・曽根惠子氏が、実例をもとに解説します。

娘たちの本音:「負債も、管理できない土地もいらない」

私たちがYさんにお伝えしたのは、「まずは家族の本当の声を聞いてみましょう」ということでした。

 

そこでYさんが娘さんたちに相談してみると、返ってきたのは、とても現実的な言葉でした。

 

「お父さん、借金をしてまでアパートを残してくれなくていいよ」
「その借金を私たちが引き継ぐのは無理だと思う。管理もできないし、将来売るのも大変そう」
「それより、お父さんとお母さんが自分たちのために、楽しくお金を使ってほしい」

 

娘さんたちにとって、古いアパートや管理の大変な土地、多額のローンは、“資産”というより“負債”に見えていたのです。

「自分たちのために資産を使う」という選択

そこで当方が提案したのは、ハウスメーカーの提案とは真逆の方向でした。

 

それは、「借金をして不動産を増やす」のではなく、「今ある資産を整理し、現金化して、自分たちの生活を豊かにする」という考え方です。

1.アパートを売却し、現金を確保する

老朽化したアパートは建て替えず、思い切って売却することにしました。その結果、約3,300万円の現金を確保することができました。

 

1.3億円の借金を抱えるどころか、3,000万円以上の預金が手元に残ったのです。

2.自宅をリフォームし、安心して暮らせる「終の棲家」へ

売却で得た資金は、自分たちのための住まいづくりに使いました。

 

「妻が最後まで、この家で安心して暮らせるようにしたい」

 

その思いから、断熱性能を高め、バリアフリー化を行い、冬でも暖かく安全に暮らせる住まいへとリフォームしました。

 

これは、次世代に借金を残さず、自分たちの代で人生を豊かに完結させるための投資でもあります。

3.残るアパート2棟も「建て替え」ではなく「組み換え」へ

さらに、別のアパート2棟も築40年近くが経過していたため、建て替えではなく売却を前提に検討することになりました。

 

資産をそのまま抱え続けるのではなく、管理しやすく、将来に備えやすい形へと「資産組み換え」を進めていく方針です。

4.贈与を急がず、「自分たちの余裕」を優先する

相続相談では、「早めに子どもへ贈与しなければ」と焦る方も少なくありません。

 

しかし、私たちはYさんご夫妻に、こうお伝えしました。

 

「まず大切なのは、ご自身たちの生活の安心とゆとりです」
「残ったお金は、“自分たちが自由に使える余裕”として持っていてください」

 

老後資金に余裕があれば、介護や医療の不安にも柔軟に対応できます。無理に財産を減らすことだけが、相続対策ではないのです。

資産組み換えによるメリット

不動産を売却し、資産の形を見直すことで、次のようなメリットが期待できます。

 

・収益性の向上
より効率よく運用できる資産へ組み換えることで、安定した収入やキャッシュフローを確保しやすくなります。

 

・相続税評価額の圧縮
資産の持ち方を工夫することで、相続時の評価額を抑え、税負担を軽減できる可能性があります。

 

・資産管理の簡素化
分散していた不動産を整理することで、次世代への承継がしやすくなり、家族の負担も減らすことができます。

「残す相続」から「活かす相続」へ

Yさんご夫妻は、1.3億円のアパート建築を断ったことで、大きな借入を背負わずに済みました。

 

「これでようやく安心して眠れます」

 

そう話される表情は、とても晴れやかなものだったそうです。

 

これから先の長い老後生活を考えれば、手元に現金がある安心感は何より大きな支えになります。必要になったときには、子どもに負担をかけず、専門家のサポートを受けながら介護や生活支援を受けることもできます。

 

そして最終的に残った自宅や不動産は、売却して娘さん3人で公平に分ければよい──。

 

土地や老朽化したアパート、借金をそのまま残すよりも、現金化された分かりやすい資産のほうが、今の時代には喜ばれるケースも少なくありません。

 

それは、「財産を残すこと」だけではなく、「家族が安心して暮らせる形に整えること」を重視した、新しい相続のかたちなのです。

 

 

曽根 惠子
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
相続実務士®

株式会社夢相続 代表取締役

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

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