(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢の親が一人で暮らしている場合、子どもが異変に気づくきっかけは、必ずしも大きな事故や病気とは限りません。「少し不安」「なんとなく様子が違う」といった小さな違和感の積み重ねが、生活の限界を知らせることもあります。親が「大丈夫」と言っていても、実際の暮らしは見えにくいものです。

「大丈夫」を信じすぎない…一人暮らしを続けるための準備

翌日、健一さんは母と一緒に台所を片づけました。焦げついた鍋を洗い、期限切れの食品を処分し、冷蔵庫の中身を紙に書き出しました。

 

「昨日のこと、覚えてる?」

 

健一さんが聞くと、節子さんは少し考え込んでから答えました。

 

「覚えてるけど…、どうしてあんなに慌てたのかは分からない」

 

病院で相談すると、医師からは「加齢による物忘れだけでなく、認知機能の変化も含めて様子を見た方がよい」と説明されました。すぐに施設入居が必要という状態ではありませんでしたが、火の管理や買い物には注意が必要だと言われました。

 

介護保険サービスを利用するには、市区町村に要介護認定の申請をし、心身の状態に応じて要支援・要介護の認定を受ける流れになります。厚生労働省の介護保険制度の説明でも、要介護認定は市区町村が介護認定審査会の判定結果に基づいて行うとされています。

 

健一さんは、地域包括支援センターにも相談しました。母には配食サービスを利用してもらい、ガスコンロは安全機能付きのものへ交換。週に数回、ヘルパーに入ってもらうことも検討しました。

 

最初、節子さんは嫌がりました。

 

「まだ一人でできるわよ。そんな大げさにしないで」

 

健一さんも、母の気持ちは分かりました。これまで家族を支えてきた母にとって、「助けが必要」と認めることは簡単ではありません。

 

それでも、あの夜の台所の光景を思い出すと、見過ごすことはできませんでした。

 

「母さんを責めたいわけじゃない。できるだけ長く家で暮らせるように、先に準備したいんだよ」

 

高齢の親の一人暮らしでは、「本人の希望」と「安全」の間で家族が悩む場面が少なくありません。すぐに同居や施設入居を決める必要はなくても、火の扱い、服薬、食事、買い物、金銭管理など、生活のどこに不安が出ているのかを確認することは大切です。

 

夜中の一本の電話は、健一さんにとって、母の暮らしを見直すきっかけになりました。

 

親が「大丈夫」と言ううちは、子どもも安心したくなります。しかし、生活の異変は、冷蔵庫の中、台所、郵便物、同じ買い物の繰り返しといった場所に表れることがあります。

 

親の自立を尊重しながら、必要な支援につなげる。その線引きは簡単ではありません。だからこそ、異変が大きな事故になる前に、家族が一緒に確認する時間を持つことが大切なのかもしれません。

 

 

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