海まで徒歩10分、念願だった地方暮らしを始めた夫婦
「ここなら畑もできるし、毎日海まで散歩できるね」
健一さん(仮名・74歳)と妻の弘美さん(仮名・72歳)が地方への移住を決めたのは、5年前のことでした。
健一さんが会社を退職したあと、夫婦は長年暮らしていた都市部のマンションを売却。以前から旅行で何度も訪れていた海沿いの町に、中古の戸建てを購入しました。
駅からは車で15分ほど。スーパーも病院も徒歩では行けませんが、当時69歳だった健一さんは運転に不安を感じていませんでした。
何より魅力だったのが、約30坪の庭と海まで歩いて行ける環境です。
庭の一角を畑に変え、トマトやナス、キュウリを育てる。朝は海沿いを散歩し、午後は庭仕事。近所の人から魚や野菜をもらうこともありました。
「最初の2、3年は、本当に理想どおりでした。都会に戻りたいなんて一度も思いませんでした」
ところが、4年目あたりから少しずつ状況が変わっていきます。最初に負担になったのは庭でした。
夏になると雑草はすぐに伸びます。畑の水やりも毎日必要です。健一さんが腰を痛めて数週間作業できなかった年には、庭が一気に荒れてしまいました。
「好きで始めた家庭菜園なのに、『今日もやらなきゃ』と思うようになったんです」
弘美さんにも別の不満がありました。
買い物へ行くにも車。美容院へ行くにも車。友人と会うには電車の駅まで夫に送ってもらわなければなりません。
「住み始めたころは、車で15分なんて近いと思っていました。でも毎日のことになると、都会で駅まで5分だった生活との違いを感じるようになりました」
それでも夫婦は、「せっかく移住したのだから」と暮らし続けていました。
決定的だったのは、健一さんが75歳を目前にして、運転をいつまで続けるか考え始めたことでした。
内閣府『令和6年版高齢社会白書』では、60歳以上で住み替えの意向を持つ人は約3割。住み替えを考える理由として、健康・体力面の不安や住宅の住みづらさに加え、「交通の便が悪くなった」「買い物が不便になった」といった生活上の不便も挙げられています。
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