「家を契約した」息子の報告に胸がざわめいた日
「母さん、家を契約したよ」――長男からそう聞かされた栄子さん(66歳)。都内で賃貸暮らしを続けていた息子夫婦(ともに34歳)は、以前からマイホームが欲しいと言っていました。しかし、その場所を聞いた栄子さんは、複雑な気持ちに駆られました。
「場所は、由香の実家のすぐ近くだから。子育ても助けてもらえるしね」
息子の嫁の由香さんの実家は、都心まで1時間ほど。息子にとっては通勤圏内であり、由香さんにとっても、実家のそばで暮らすことは、4歳の子を育てる母として最善の選択だったのでしょう。
しかし、栄子さんの胸はざわめきました。
「……息子も孫も、取られちゃったみたい」
もちろん孫は自分のものではない。理屈ではわかっています。それでも、孫が生まれた頃から、どこかずっと引っかかっていました。
里帰り出産から始まり、初節句、お食い初め。すべてが嫁側主導で決まっていきます。送られてくる写真には、いつも嫁の母が自然に写り込んでいました。
モヤモヤするのは、こんな事情もありました。息子夫婦から住宅購入を考えていると言われたとき、栄子さん夫婦は老後資金の一部を取り崩し、500万円を援助しています。「少しでも助けになれば」 そんな思いでした。
しかし結局、購入した家は、嫁の実家の近く。その晩、眠れない栄子さんは、「私たちは、お金だけ出す係だったみたいね」……夫にそう漏らしました。
夫は「近いほうが便利なんだから仕方ないよ。幸せに暮らしてくれれば、それでいいじゃないか」とだけ。しかし、その正論が、栄子さんには余計につらく感じられました。
