売りたいのに売れない…老後の重荷に変化
決定打となったのは、康夫さんが軽い脳梗塞で入院したことでした。幸い大事には至りませんでしたが、退院後、長距離運転に不安を感じるようになります。
「もう無理して行かなくてもいいんじゃない?」
美智子さんがそう言うと、康夫さんも黙ってうなずきました。
夫婦は別荘を売却することにしました。ところが、不動産会社に相談すると、思っていたような価格では売れないと言われます。築年数が古く、駅から遠く、冬場の管理も必要。購入希望者は限られました。
「1,700万円で買ったのだから、少なくとも1,000万円くらいでは売れると思っていました」
しかし、提示された査定額は数百万円台。しかも、すぐに買い手がつく保証はありませんでした。維持費を払いながら、売れるのを待つしかない状況です。
総務省『令和5年住宅・土地統計調査』によると、全国の空き家率は13.8%と過去最高になっています。別荘などの二次的住宅は一般住宅とは性質が異なりますが、使われない家をどう管理し、どう手放すかは、多くの人にとって身近な問題になりつつあります。
内閣府『令和7年版高齢社会白書』でも、65歳以上の人の8割以上が持ち家に居住しているとされています。自宅に加えて別荘を持つことは、老後の楽しみになる一方、体力や家計に変化が起きたとき、管理すべき不動産が増えるということでもあります。
康夫さん夫婦は、価格を下げて売却活動を続けることにしました。孫を連れて過ごした思い出は残っています。それでも、美智子さんは通帳を見ながらつぶやきました。
「もう少し借りて楽しむだけでもよかったのかもしれないね」
康夫さんも、今ではそう思うといいます。
「年に何度も行くつもりでした。でも、年を取ると、行く体力も気力も変わるんです」
別荘を持つこと自体が悪いわけではありません。自然の中で過ごす時間や、家族との思い出はお金には換えられない価値があります。
ただし、老後の住まい選びでは、「買えるか」だけでなく「通い続けられるか」「管理し続けられるか」「不要になったとき手放せるか」まで考える必要があります。
老後資金は、夢をかなえるためのお金であると同時に、長く続く暮らしを守るためのお金でもあります。憧れだけで不動産を持つと、楽しむはずだった場所が、いつの間にか家計と体力を削る重荷になってしまうこともあるのです。
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