「大丈夫だ」と言っていた父…通帳に並んでいた高額出金
拓也さん(仮名・56歳)が父の異変に気づいたのは、正月に帰省したときでした。
85歳の父・正一さん(仮名)は、妻を亡くしてから一人暮らしを続けています。年金は月6万円ほど。持ち家のため家賃はかからず、本人はいつも「贅沢しなければ暮らせる」と話していました。
「何か困ってない?」
拓也さんが聞いても、正一さんは決まってこう答えました。
「大丈夫だ。お前に迷惑はかけん」
ところがその日は様子が違いました。冷蔵庫には食材がほとんどなく、居間の暖房もついていません。父は「寒くない」と笑いましたが、部屋は底冷えしていました。
不安になった拓也さんが通帳を確認すると、言葉を失いました。
毎月、年金が入った直後に5万円、8万円、多い月には10万円近い出金がありました。残高は、数年前に聞いていた額から大きく減っていました。
「うそだろ……何に使ったんだよ」
問い詰めると、正一さんはしばらく黙り込んだあと、小さな声で言いました。
「近所の人に勧められてな。体にいい水だとか、布団だとか……。断れなかったんだ」
最初は、健康食品の購入でした。膝の痛みに効く、眠りが深くなる、血圧が安定する。そう言われ、1万円程度の商品を買ったといいます。
その後、販売員が定期的に訪ねてくるようになりました。
「奥さんを亡くされて寂しいでしょう」
「息子さんも忙しいでしょうから、私たちが気にかけますよ」
そんな言葉に、正一さんは少しずつ心を許していきました。気づけば、健康器具、寝具、浄水器のような商品を次々と契約していました。
厚生労働省『令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』では、老齢基礎年金の平均年金月額は令和6年度末現在で約5.9万円とされています。正一さんの年金額は、決して特殊な数字ではありません。
しかし、総務省『家計調査(2025年)』によると、65歳以上の単身無職世帯では、月の収入が支出を下回り、平均で約3万円の不足が生じています。年金月6万円で一人暮らしを続けるには、預貯金の取り崩しや家族の支援が必要になる場面もあります。
