「助けているつもり」が依存を生む…老後資金を守る線引き
援助は、長男世帯だけにとどまりませんでした。
次男夫婦にも子どもが生まれると、恵美子さんは「長男のところだけに渡すのは不公平だから」と、出産祝い、ベビーカー代、節句の祝いを用意しました。
最初は一時的な支出でしたが、次男からも相談が来るようになります。
「保育園に入れなくて、妻が思うように働けない」
「今月だけ、家賃の一部を貸してほしい」
浩一さんは、そのとき初めて強い違和感を覚えました。
「これはもう、孫へのお小遣いじゃない。息子たちの生活費を、俺たちが背負っているんじゃないか」
しかし、恵美子さんはすぐには受け入れられませんでした。
「困っているのに見捨てるの? 親なのに?」
夫婦の間でも口論が増えました。
国税庁の贈与税に関する説明では、暦年課税の場合、贈与税は受け取る人ごとに年間110万円の基礎控除があるとされています。通常の生活費や教育費を必要な都度渡す場合には、ただちに贈与税の問題になるとは限りませんが、まとまった金銭を継続的に渡す場合には、金額や目的を確認しておく必要があります。
もっとも、浩一さん夫婦にとって深刻だったのは、税金以上に「やめどきが分からない」ことでした。
ある月、長男と次男への援助を合わせると、支出は12万円を超えました。夫婦の生活費、固定資産税、医療費、火災保険料も重なり、その月は貯蓄から20万円以上を取り崩しました。
浩一さん夫婦は、貯蓄がまったくないわけではありません。それでも、援助が続けば、医療や介護が必要になったときの備えが削られていきます。
ある日、浩一さんは息子たちを呼び、はっきり伝えました。
「孫をかわいく思う気持ちは変わらない。でも、これ以上、毎月の生活費を出すことはできない」
長男は困惑しました。
「急に言われても、こっちも予定があるよ」
その言葉に、恵美子さんは涙を浮かべました。
「私たちだって、いつまでも元気でいられるわけじゃないのよ」
その後、夫婦は援助のルールを決めました。誕生日や入学祝いなどの節目は無理のない範囲で渡す。月々の生活費やローンの補填はしない。どうしても必要な場合は、金額、理由、返済の有無を明確にして、夫婦で相談してから決める。
「少し渡すだけのつもりでした。でも、親だから、祖父母だからと曖昧にしているうちに、家計の境界線がなくなっていました」
子や孫を助けたいと思う気持ちは自然なものです。特に、共働きでも生活が苦しい若い世帯を見れば、手を差し伸べたくなるのも無理はありません。
ただし、老後資金は自分たちの生活、医療、介護、住まいを守るためのお金でもあります。
援助は、一度始めると相手の生活設計に組み込まれやすくなります。だからこそ、「いくらまで」「何のために」「いつまで」を決めておくことが大切です。
愛情から始まった支援が、親世帯の老後を揺るがすこともあります。助けることと、背負い続けることは違います。家族だからこそ、早い段階で線引きを共有しておく必要があるのかもしれません。
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