(※写真はイメージです/PIXTA)

老後の暮らしが始まってからも、子や孫を経済的に支える家庭は少なくありません。入学祝い、習い事、家電の買い替え、住宅費の一部など、「一度だけ」「少しだけ」のつもりで始まる支援もあります。しかし、年金生活では日々の生活費に加え、医療費や住まいの修繕費なども重なります。援助が習慣化すると、十分に見えた老後資金が想像以上の速さで減っていくことがあります。

「助けているつもり」が依存を生む…老後資金を守る線引き

援助は、長男世帯だけにとどまりませんでした。

 

次男夫婦にも子どもが生まれると、恵美子さんは「長男のところだけに渡すのは不公平だから」と、出産祝い、ベビーカー代、節句の祝いを用意しました。

 

最初は一時的な支出でしたが、次男からも相談が来るようになります。

 

「保育園に入れなくて、妻が思うように働けない」

「今月だけ、家賃の一部を貸してほしい」

 

浩一さんは、そのとき初めて強い違和感を覚えました。

 

「これはもう、孫へのお小遣いじゃない。息子たちの生活費を、俺たちが背負っているんじゃないか」

 

しかし、恵美子さんはすぐには受け入れられませんでした。

 

「困っているのに見捨てるの? 親なのに?」

 

夫婦の間でも口論が増えました。

 

国税庁の贈与税に関する説明では、暦年課税の場合、贈与税は受け取る人ごとに年間110万円の基礎控除があるとされています。通常の生活費や教育費を必要な都度渡す場合には、ただちに贈与税の問題になるとは限りませんが、まとまった金銭を継続的に渡す場合には、金額や目的を確認しておく必要があります。

 

もっとも、浩一さん夫婦にとって深刻だったのは、税金以上に「やめどきが分からない」ことでした。

 

ある月、長男と次男への援助を合わせると、支出は12万円を超えました。夫婦の生活費、固定資産税、医療費、火災保険料も重なり、その月は貯蓄から20万円以上を取り崩しました。

 

浩一さん夫婦は、貯蓄がまったくないわけではありません。それでも、援助が続けば、医療や介護が必要になったときの備えが削られていきます。

 

ある日、浩一さんは息子たちを呼び、はっきり伝えました。

 

「孫をかわいく思う気持ちは変わらない。でも、これ以上、毎月の生活費を出すことはできない」

 

長男は困惑しました。

 

「急に言われても、こっちも予定があるよ」

 

その言葉に、恵美子さんは涙を浮かべました。

 

「私たちだって、いつまでも元気でいられるわけじゃないのよ」

 

その後、夫婦は援助のルールを決めました。誕生日や入学祝いなどの節目は無理のない範囲で渡す。月々の生活費やローンの補填はしない。どうしても必要な場合は、金額、理由、返済の有無を明確にして、夫婦で相談してから決める。

 

「少し渡すだけのつもりでした。でも、親だから、祖父母だからと曖昧にしているうちに、家計の境界線がなくなっていました」

 

子や孫を助けたいと思う気持ちは自然なものです。特に、共働きでも生活が苦しい若い世帯を見れば、手を差し伸べたくなるのも無理はありません。

 

ただし、老後資金は自分たちの生活、医療、介護、住まいを守るためのお金でもあります。

 

援助は、一度始めると相手の生活設計に組み込まれやすくなります。だからこそ、「いくらまで」「何のために」「いつまで」を決めておくことが大切です。

 

愛情から始まった支援が、親世帯の老後を揺るがすこともあります。助けることと、背負い続けることは違います。家族だからこそ、早い段階で線引きを共有しておく必要があるのかもしれません。

 

 

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