「順調だよ」息子の言葉を信じていた母
「仕事はどう? 一人暮らしには慣れた?」
母の真由美さん(仮名・53歳)が尋ねると、長男の拓海さん(仮名・23歳)はいつも笑って答えました。
「順調だよ。ちゃんとやってるから心配しなくていいって」
拓海さんは大学卒業後、都内の会社に就職しました。月収は額面で約24万円。勤務先まで通いやすい場所に家賃7万8,000円のワンルームを借り、初めて実家を離れました。
入社から半年ほどは、月に一度実家へ顔を出していました。スーツ姿で仕事の話をし、食事を終えると、「明日も予定があるから」と早めに帰ります。真由美さんは、息子が社会人として自立していることを頼もしく感じていました。
ところが、就職から1年近くたつと、帰省の回数が減りました。電話にも出ないことが増え、メッセージの返信は「忙しい」「寝てた」の一言だけです。
ある週末、拓海さんから「熱が出た。悪いけど、実家に置いてある保険証関係の書類を持ってきてほしい」と連絡がありました。真由美さんが部屋を訪ねるのは、引っ越しを手伝って以来でした。
玄関を開けた瞬間、真由美さんは言葉を失いました。
床には衣類と空のペットボトルが散らばり、流しには洗っていない食器が積まれています。テーブルの上には、コンビニ弁当の容器や未開封の郵便物が重なっていました。
「どうしたの、これ……」
「仕事が忙しくて、片づける時間がなかっただけ」
拓海さんはそう言いましたが、真由美さんが郵便物を整理すると、クレジットカード会社からの請求書や支払いを促す通知が何通も出てきました。
拓海さんの手取りは月約19万円。そこから家賃、光熱費、通信費、奨学金の返還などを支払うと、自由に使える金額は多くありません。日本学生支援機構(JASSO)『返還のてびき(令和7年度版)』や「返還例」では、第一種奨学金は貸与額などによって月々の返還額が1万円台となり、返還期間が十数年に及ぶケースも示されています。
拓海さんは就職直後、スーツや家電、ベッドなどをクレジットカードの分割払いで購入していました。その後も、仕事のストレスからネット通販を繰り返し、支払いが苦しい月はリボ払いへ変更。残高は約90万円に膨らんでいました。
「給料が入れば何とかなると思ってた。でも、払っても残高がほとんど減らなくて……」
消費者庁『若手従業員向け研修プログラム「消費者と企業人の視点で考えよう 消費生活のキホン」』では、リボ払いなどの仕組みを十分理解しないまま利用を続けることで、返済が長期化し、多重債務につながるリスクについて注意喚起しています。
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