8年後に見えた現実…「楽しむお金」と「暮らしを守るお金」
変化に気づいたのは、退職から8年後でした。
久しぶりに資産状況を整理した誠一さんは、数字を見て言葉を失います。6,000万円あった貯蓄は、2,000万円ほどにまで減っていました。
もちろん、旅行だけで減ったわけではありません。
その間、自宅の外壁塗装、給湯器の交換、家電の買い替えがありました。由美子さんの入院もあり、医療費や差額の支払いも発生しました。さらに、物価上昇で日々の食費や光熱費もじわじわ増えていました。
「一つひとつは必要なお金でした。でも、全部を合わせると大きかったんです」
金融広報中央委員会『家計の金融行動に関する世論調査(2023年)』でも、老後の生活について心配している世帯は約8割に上り、その理由として「十分な金融資産がないから」「年金や保険が十分ではないから」「物価上昇への不安」などが挙げられています。
誠一さん夫婦は、決して極端な浪費をしていたわけではありません。ただ、「まだある」という安心感から、支出のペースを細かく確認していませんでした。
年に数回の旅行。少し良いホテル。ビジネスクラス。家の修繕。医療費。日々の赤字。それらが8年分積み重なった結果、老後資金の見通しは大きく変わっていました。
由美子さんは、ある日、通帳を見ながらつぶやきました。
「あんなにお金があったのに」
その後、夫婦は旅行の回数を見直しました。海外旅行は数年に一度にし、普段は近場の温泉や日帰り旅を楽しむ。貯蓄は、生活費、医療・介護費、住宅修繕費、余暇費に分けて考えるようにしました。
「旅行したことを後悔しているわけではありません。でも、“楽しむお金”と“暮らしを守るお金”を分けて考えるべきでした」
老後資金は、ただ残しておけばよいものではありません。元気なうちに楽しむことも確かに大切です。
しかし、その一方で、長く続く生活を支えるお金でもあります。
医療費や介護費、住まいの修繕費など、老後には予想していなかった支出も少なくありません。「今を楽しむこと」と「将来に備えること」のバランスを意識しながら、お金と向き合っていくことが大切なのかもしれません。
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