「私が見なきゃ」…娘が抱え込んだ実母の介護
会社員の真理さん(仮名・46歳)は、80歳の母・芳子さん(仮名)の介護を続けていました。
芳子さんは要介護2。年金は月17万円ほどで、一人暮らしをしていました。家賃はかかりませんが、通院費や介護サービスの自己負担、食費、光熱費などを払うと、余裕があるわけではありません。
真理さんは週に3回、仕事帰りに母の家へ寄っていました。
冷蔵庫の中を確認し、薬をカレンダーに分け、洗濯物を片づける。休日には病院へ付き添い、ケアマネジャーとの面談にも出ます。
「母を施設に入れるほどではない。でも、一人にしておくのも不安でした」
そう話す真理さんには、夫と中学生の子どももいます。平日は仕事、夜は母の家、休日は家族の用事。自分の時間はほとんどありませんでした。
それでも、真理さんは「私がやるしかない」と思っていました。兄は遠方に住み、仕事も忙しい。母も、電話ではいつも真理さんを頼りました。
「あなたが来てくれると安心する」
そう言われると、断れなかったのです。
介護サービスも利用していたものの、母の不安や細かな用事までは、サービスだけでは埋まりません。
「結局、最後に呼ばれるのは私でした」
そんな日々が、1年以上続いていました。
その夜、真理さんは仕事で残業になりました。
母の家に着いたのは、午後8時を過ぎていました。急いでスーパーで買った総菜を温め、薬を確認し、洗濯物を取り込みます。
疲れきっていた真理さんに、芳子さんは不機嫌そうに言いました。
「来るのが遅いじゃない」
真理さんは、一瞬、言葉を失いました。
「仕事だったの。急いで来たんだよ」
そう答えると、母は続けました。
「お母さんを放っておくなら、もう来なくていい」
その一言で、真理さんの中の何かが崩れました。
「私、何のために頑張ってきたんだろう」
台所に立ったまま、涙が止まらなくなったといいます。母に悪意があったのかどうかは分かりません。体調の悪さ、不安、老いによる心細さが、強い言葉になって出たのかもしれません。
しかし、真理さんには、その一言が深く刺さりました。
「感謝してほしかったわけではないんです。でも、全部なかったことにされたように感じました」
