「誰かのため」だけでは満たされない老後
節子さんは、孫が来る日を中心に予定を組むようになっていました。
孫の好きなものを買う。料理を作る。小遣いを渡す。長男夫婦から「助かる」と言われると、うれしい反面、断りにくくもなりました。
「予定があるのはいいことだと思っていました。でも、気づいたら、自分の楽しみがほとんどなくなっていたんです」
孫が来る日は忙しい。帰った後は疲れて何もする気が起きない。その繰り返しの中で、節子さんは少しずつ、自分の時間の使い方が分からなくなっていきました。
総務省『社会生活基本調査』では、高齢期にも趣味や学習、地域活動、友人との交流などに時間を使う人がいることが示されています。家族との時間だけでなく、家庭の外にある居場所や人間関係が、暮らしの支えになることもあります。
ある夜、長男から「来週も子どもたちをお願いできる?」と電話がありました。節子さんは、少し迷ったあとで言いました。
「来てくれるのは嬉しいの。でも、毎週は少し疲れるかもしれない」
節子さんは、初めて正直に話しました。
「無理というほどではないの。ただ、帰ったあと、急にひとりになるのがつらくて」
長男はしばらく黙ったあと、「ごめん。頼りすぎてたかもしれない」と言いました。
それから、孫たちが来る日は月に数回に決めることになりました。長男夫婦も、食事代を持参したり、片づけを手伝ったりするようになりました。
節子さん自身も、近くの公民館で開かれている手芸教室に通い始めました。
「孫のためだけじゃない予定ができたんです」
そう話す表情は、少し明るくなっていました。
家族に必要とされることは、確かに幸せです。けれど、それだけが老後の支えになるとは限りません。
誰かのために動く時間と、自分のために過ごす時間。その両方があって初めて、日々は少し安定するのかもしれません。
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