「慎ましく暮らしていた父が」…通帳に残っていた大きな出金
由紀さん(仮名・51歳)は、85歳の父・勝雄さん(仮名)の通院に付き添った際、通帳を見て言葉を失いました。
勝雄さんは、妻を亡くしてから古い持ち家で一人暮らしを続けています。年金は月6万円ほど。若いころは自営業でしたが、国民年金中心だったため、受給額は多くありませんでした。
由紀さんは、月に数万円の仕送りをし、食料品も定期的に送っていました。
「父は昔から質素な人でした。お酒も飲まないし、旅行もしない。だから大きなお金を使うとは思っていませんでした」
ところが、通帳には数ヵ月おきにまとまった引き出しが記録されていました。
50万円、80万円、120万円――。合計すると、約900万円にのぼります。
「こんな大金、何に使ったの?」
由紀さんが尋ねると、勝雄さんは目をそらしました。
「ちょっと、人に貸しただけだ」
その言葉に、由紀さんの胸はざわつきました。
詳しく聞くと、相手は近所で知り合った70代の男性でした。買い物先で顔を合わせるうちに親しくなり、「急に入院費が必要になった」「息子の事業が大変で」と頼まれ、何度も現金を渡していたといいます。
「すぐ返すと言われた」
「困っている人を見捨てられなかった」
勝雄さんはそう繰り返しました。
しかし、借用書はありません。返済も一部だけで、相手とは最近連絡が取りづらくなっていました。
警察庁の資料では、令和6年の特殊詐欺の認知件数は20,987件、被害額は721.5億円にのぼっています。高齢者が人間関係や不安につけ込まれ、まとまった現金を失う事例は後を絶ちません。
由紀さんは、父がだまされたのではないかと直感しました。
由紀さんが青ざめたのは、金額の大きさだけではありませんでした。
父は月6万円の年金で暮らし、娘からの仕送りも受けていました。その一方で、手元に残っていた貯金を他人へ渡していたのです。
「私が生活費を送っていたお金も、結局どこかに流れていたのかもしれない」
そう思うと、怒るより先に、全身の力が抜けたといいます。
