(※写真はイメージです/PIXTA)

親子関係は、たった一度の出来事だけで壊れるとは限りません。以前から積み重なっていた不信感に、決定的な言動が重なることで、子どもが親との距離を置くことがあります。親が「家族のため」と考えた行動でも、本人の意思を軽視すれば、取り返しのつかない溝を生むことがあるのです。

「夫には居場所を教えないで」娘から頼まれていたが…

孝一さん(仮名・68歳)と妻の久美子さん(仮名・66歳)は、市営団地で二人暮らしをしています。夫婦の年金は年額約280万円。月に換算すると約23万円です。

 

以前は持ち家で暮らしていましたが、数年前に売却しました。現在の部屋は築年数が古く、冬場は結露がひどいものの、家賃が抑えられるため、年金生活には助かっています。

 

二人には、一人娘の真由さん(仮名・39歳)がいます。しかし、ここ数年、連絡はありません。孝一さんは夕方になると窓の外を眺め、同じ言葉を繰り返します。

 

「あの夜、玄関を開けなければな……」

 

きっかけは、真由さんが夫との関係に悩み、幼い息子を連れて実家へ戻ってきたことでした。夫婦げんかが増え、生活費を十分に渡してもらえない時期も続いていたといいます。

 

「しばらくここに置いてほしい。夫には居場所を教えないで」

 

真由さんは両親に頼みました。久美子さんは了承しましたが、孝一さんは「夫婦のことは夫婦で話し合うべきだ」と考えていました。

 

数日後の夜、玄関のチャイムが鳴りました。立っていたのは真由さんの夫でした。

 

「真由と話をさせてください。電話にも出ないんです」

 

久美子さんは、玄関へ向かおうとする孝一さんを引き止めました。

 

「本人が会いたくないと言っているの。今日は帰ってもらいましょう」

 

それでも孝一さんは、「逃げていても解決しない」と玄関を開けました。

 

真由さんの夫は家へ入り、声を荒らげました。真由さんも「帰って」と叫び、泣き出した孫を抱えて奥の部屋へ逃げ込みます。警察を呼ぶ事態にはなりませんでしたが、近所の住民が廊下へ出てくるほどの騒ぎになりました。

 

夫が帰ったあと、真由さんは孝一さんを見つめました。

 

「居場所を教えないでって頼んだよね」

 

「話し合わないと何も進まないだろう」

 

「お父さんは、私が何を怖がっていたか、一度も聞かなかった」

 

翌朝、真由さんは息子を連れて家を出ました。その後、支援機関を通じて別の住まいを確保し、夫とは離婚。両親には住所を知らせませんでした。

 

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