「同居するなら、条件がある」弟が提示した現実的な線引き
浩介さんが提示した条件は、三つでした。
一つ目は、介護費用を母の年金と預貯金から優先して使うこと。二つ目は、姉も通院付き添いやショートステイの手続きなどを分担すること。三つ目は、将来の相続で“同居して介護した事実”をきちんと考慮することでした。
「同居するなら、僕の家族の生活も変わる。妻にも負担がかかる。そこを“長男だから当然”で済ませないでほしい」
美和さんは、しばらく黙っていました。
本音では、自分も限界だったのです。仕事をしながら母の様子を見に行き、病院へ連れて行き、近所からの連絡にも対応する。誰かに代わってほしかったのです。
厚生労働省『国民生活基礎調査』でも、要介護者を主に介護する人は同居家族だけでなく、別居の家族や親族も含まれています。家族介護は、特定の一人に負担が集中しやすい問題でもあります。
その後、姉弟はケアマネジャーを交えて話し合いました。
訪問介護、デイサービス、ショートステイを組み合わせ、まずは在宅生活を続ける方向になりました。浩介さんは月2回の帰省と手続き関係を担当し、美和さんは緊急時の近距離対応を担う。費用は母の資産から出し、不足分は姉弟で話し合うことにしました。
「長男だから」という言葉は、話し合いの場から消えました。美和さんは後日、浩介さんに言いました。
「私も、押しつけたかったわけじゃないの。ただ、つらかった」
浩介さんも、姉の言葉を受け止めました。
介護は、誰かの善意だけで続けられるものではありません。親への思いがあっても、仕事や家庭、体力には限界があります。
「家族なんだから」と曖昧にしたまま始めると、やがて不満や相続トラブルにつながることもあります。
浩介さんが姉に突きつけた条件は、母を支えるために、きょうだいが共倒れしないための現実的な線引きだったのです。
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