前回に引き続き、医療法人化のメリットを巧みに使いこなし、老後生活費を確保した妻の事例を見ていきます。今回は、クリニック後継者の負担を軽減する「出資持分」の移転方法を紹介します。

法人の利益を減らしたタイミングで、出資持分を移転

さて、法人化のメリットは他にもあります。理事長に退職金を出したことで一時的に法人の利益が減り、出資持分の評価が大きく下がりました。このタイミングで、後継者である息子さんに、出資持分を相続時精算課税制度で贈与しました。

 

将来、相続が発生したときに、贈与した分は相続財産に持ち戻して相続税の計算をすることになりますが、相続時精算課税制度は「贈与した時点」で価格を固定できます。持分評価の低いときに金額固定ができたので、息子さんがこれから頑張ってたくさん利益を上げても、それが相続税にはね返ることは一切ありません。遺留分にも反映しません。

 

もしも、このタイミングで出資持分を移転できなかったとしたら、息子さんが頑張れば頑張るほど、相続税が高くなってしまうという事態が起こっていたでしょう。

 

息子さんの代になっても、クリニックは丁寧な診療で評判で、大変繁盛しています。

自宅を売却し、子どもたちの相続税負担も軽減

今、日本では人口が減っていて、両親が住んでいた家が空き家になってしまい、その処分に困る方たちが急速に増えています。人々の暮らし方も多様化し、自宅が〝遺して喜ばれる財産〟ではなくなってしまった気がいたします。

 

私自身も女2人の姉妹で、横浜で空き家になってしまった実家を抱え、とても悩んでいます。それは「想い」がいっぱい詰まっているから、余計にそう思うのです。生まれ育った生家は、祖父母の思い出、亡くなった父の思い出があり、家を大切にしてきた先祖の気持ちを考えると、合理的に割り切ることはできません。母は老人ホームに入ったとはいえ、まだ生きている以上、売却するという決断はどうしてもできずにいます。

 

しかし空き家にしていては不用心ですし、伸びてくる庭木の枝が邪魔になったり、台風や地震で瓦が落ちてご近所に迷惑をかけないかも心配です。仏壇も置いたままなので、何とかしなければなりません。実はいつもいつも気がかりなのです。

 

こうした自宅の空き家化問題に対して、淑子さんが出した答えは、売却してしまうことでした。淑子さんご自身もご高齢になり、若い頃のようには動けない中、離れた地域で療養されていらっしゃるご主人のもとに通いやすい便利なマンションに、ご自宅を売却して居を移されました。

 

ご自宅は、事前に淑子さんに贈与してありました。「配偶者への贈与の特例」を使い、2110万円分は非課税でした。そのため、ご自宅を売却してもご夫婦それぞれが3000万円まで非課税になります。

 

お子様たちもすでに各自のご自宅をお持ちで、住むことはないだろうと決断されたのですが、長年住まわれた思い出のご自宅を売却するという決断は、さぞ勇気が必要だったと思います。

 

それは、淑子さんの「子どもたちに負担を遺したくない」という一心からの決断で、母の愛情の深さだと、ただただ感服しております。

 

淑子さんは、生命保険だけでなく各種特例までも自在に使うことができるようになります。今は、他の不動産も整理することをお考えのようです。

 

ご主人様は病床にありながら、潔い奥様の行動力に驚いておられます。いつもくよくよせず、何事にもとらわれず、現状を受け入れながら限界突破していく奥様の頼もしさに、どれだけ救われていらっしゃることでしょう。見事な生き方をされている淑子さんに出会えて、私もありがたく感謝しています。

本連載は、2016年8月27日刊行の書籍『開業医の相続対策は「奥様」がやりましょう』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

開業医の相続対策は 「奥様」がやりましょう

開業医の相続対策は 「奥様」がやりましょう

芹澤 貴美子

幻冬舎メディアコンサルティング

開業医は、今、目の前にいる患者さんの命と健康を預かる、専門的な職業です。新しい医療技術のこと、新薬のことなど、たくさんの情報を常に仕入れていなくては務まりません。なかなかお金の知識を得るための時間はないのが現実…

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