「払戻請求」のリスクを回避するも、贈与税が莫大に…
春江さん(仮名)は一族全員が医業従事者で、ご兄弟も一緒に病院経営をしていらっしゃいます。
持分ありの医療法人では常に払戻請求のリスクがついて回るため、「出資額限度法人」にすることで、これを回避してありました。
払戻請求というのは、出資持分をもつ人が「持分を買い取ってくれ」と請求することです。持分評価が高くなっていると、買い取るのに多額の資金を調達してこなくてはならない問題が起きます。
出資額限度法人というのは、払戻請求された場合、「利益分の上乗せなしに買い取ることができる」という定款をもつ持分ありの社団医療法人です。出資額が100万円なら、払い戻しの際に持分評価が1000万円になっていたとしても、払戻請求金額は出資額の100万円となります。
ただし、浮いた900万円については、他の出資者に贈与されたものとして、贈与税が課されます。これを「みなし贈与」と言います。持分評価が大きく膨らんでいる法人の場合、みなし贈与にかかる贈与税は莫大な額になってしまうというリスクがあります。
「特定同族会社事業用宅地の評価減特例」を活用
さて、春江さんは200床あるクリニックの敷地が理事長個人の名義のままでしたので、相続の際に分割問題が出てくるだろうことが、気がかりで仕方ありませんでした。そこで、医業を継ぐ子に敷地を相続させることで「特定同族会社事業用宅地の評価減」という特例を適用しようと考えました。
この割引制度が活用できると、400㎡までの宅地が80%OFFになります。都内の路線価の高い地域にある土地は、大幅に減額することができるのです。
ただし、その割引を使うためには、これまでその土地が事業用に供されていたことと、10カ月以内に遺産分割協議を整えなくてはならないという、ふたつの条件があります。簡単な条件に聞こえますが、ことはそう簡単ではありません。特例を使えるよう体制を整えるために、いくつかの対策に取り組んでいただきました。
①賃借契約書を交わし、適正地代を払う
実際、土地は事業に使ってはいるものの、ご主人は元々親からもらった土地だからといって、兄弟も働く医療法人からは、固定資産税程度の地代しか受け取っていませんでした。
これは使用貸借といってタダで(あるいは望外に安く)土地の権利を与えていることになり、相続が発生したときには、更地の評価になってしまいます。いくら事業に使っていたと主張しても、80%OFFは適用できないのです。
すぐさま顧問税理士の先生に相談し、適正な対価を理事長に払うよう賃借契約書を交わし、実行していただきました。
②税務署に、土地の無償返還に関する届出書を提出し、さらに評価OFF
役所に「土地の無償返還に関する届出書」を出すと、病院経営に使用していた土地は、権利金を払わずとも、貸宅地評価になります。すると、さらに20%OFFになります。
その結果、相続時評価額が1億円だった土地を、ふたつの特例を適用することで、なんと1600万円まで下げる準備が整いました。
この話は次回に続きます。